騙し絵に浮かぶ真実「予告された殺人の記録」感想。

 

 こんにちは、ららです。


 ガブリエル・ガルシア=マルケスの自称・最高傑作、

 「予告された殺人の記録」を読みました。

 マルケス作品に挑むとき、私はいつも、難易度の高い山に登るような

 心持ちになります。

 でも、今回は少し違いました。

 ぐいぐい読める。でもでもどこか道に迷ったような感覚が残る。


 案の定、物語の状況を大きく勘違いしていました。

 何度か読み返して、ようやく全体像が見えて来たとき、

 まるで騙し絵が徐々に輪郭を現すような感動がありました。

 「なんだ、こういうことだったのか・・」

 感動や、感嘆や、戦慄が、後からじわじわと押し寄せてくるような体験でした。

 さすがマルケス、一筋縄では読ませてくれません。 





 予告された殺人の記録(G.ガルシア=マルケス)


 【あらすじ】

 共同体の崩壊、古い時代の終焉、怨嗟、愛憎……、事項が重なり合って悲劇は起こる――。

 大ベストセラー『百年の孤独』の著者の、もうひとつの代表作。 

 町をあげての婚礼騒ぎの翌朝、充分すぎる犯行予告にもかかわらず、なぜ彼は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町でほぼ三十年前に起きた、幻想とも見紛う殺人事件。 凝縮されたその時空間に、差別や妬み、憎悪といった民衆感情、崩壊寸前の共同体のメカニズムを複眼的に捉えつつ、モザイクの如く入り組んだ過去の重層を、哀しみと滑稽、郷愁をこめて録す、熟成の中篇。

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 ・公開処刑のような殺人。

 とにかく残虐なのです。 

 結婚式の翌朝、裏若いイケメンの青年が、

 屠殺用のナイフで滅多刺しにされる。

 しかも、町中の誰もが、それを「予告されていた」にもかかわらず、止めようとしなかった。

 まるで闘牛のように、逃げ場のない公開処刑。

 その残虐さに、読む手が一瞬止まりました。

 

 ・見事な構成と、時を遡る記憶の旅。 

 物語は、なぜそんな惨劇が起きたのか、その謎を追うように始まります。

 だがその構成がまた見事で、殺人がすでに起きた後に、時間が遡り、

 記憶の断片を繋ぐように、過去が静かに語られていきます。


 ノスタルジックな情景が、心に余韻のように残り、

 残虐なのに、美しいと感じてしまう不思議な体験でした。


 特に、殺人後の「後日談」が描かれることで、

 登場人物たちの罪と罰、赦しと愛が見えてきます。

 中でも、陵辱された花嫁と、面目を失った花婿が、

 時を経て「愛」に変わっていく物語

 はとても印象的でした。


 そしてラスト。

 過去の現在に戻り、殺人の顛末が衝撃的に描かれて、幕を閉じます。

 この構成、本当に痺れました。  


 ・騙し絵のような語り 

 読み返すたびに、本当の姿が少しずつ見えてくる。

 まるで騙し絵を何度も覗き込むような読書体験でした。

 最初はただの残虐な話にしか思えなかったのに、

 読み進めるうちに、語り手の記録や断片が、どんどん深い意味を帯びていく。

 そして最後に突きつけられる「真実」の全貌。

 思わず愕然とし、呆然とし、それでも読み終えた自分に誇らしささえ感じてしまいました。

 

 ・天使か、悪魔か

 主人公サンティアゴ・ナサールの姿ーー

 邪気のないまなざし、清廉な服装、煌めく巻き髪、

 まるで天使のような存在に描かれているのに、

 彼が本当に悪だったのか、そもそも罪があったのかさえも曖昧。


 むしろ、「彼が犯人だったのでは?」という疑念に、

 読者の心を委ねてしまう手法に、マルケスの魔力を感じました。


 どのページを開いても、美しく、何重にも面白い小説です。

 読書が苦手な方にも、「構成の妙」と「謎解き」の面白さで手渡せるような一冊です。





 最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 今日が穏やかな、素敵な一日となりますように。

 願いを込めて。





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