喪失と再生と。「永い言い訳」


 令和ロマンさんがオンラインカジノにまつわる事情徴収を受けたと聞いて、現代に生きる芸人さんは本当にクリーンじゃないと生き残れないのだなぁとしみじみ思った著者です。お元気でお過ごしでしょうか。

 芸人さんだけじゃないですよね。文化人だろうが、芸能人だろうが、不倫なんてとんでもない、◯ハラなんてものっての他、違法性を知り尽くした人格者でないと、生き残れない時代になってきました。本当に大変な世の中です。


 さて、今日は西川美和さんの「永い言い訳」を読みました。



 「永い言い訳」


【あらすじ】
妻が死んでも泣けない男のラブストーリー。人気作家の衣笠幸夫は、長年連れ添った妻が友人とともに旅行に出かけたその日に、彼女がバス事故死したことを知らされる。ただ妻のいぬ間に不倫をしていた幸夫にとって、彼女の死はそれほど悲しいものではなかった。
 同じ事故で亡くなった妻の友人の夫、陽一から連絡を受ける。トラック運転手である陽一はふたりの子供を抱えながら、妻を失った悲しみを共有できる相手を求めていた。そして始まる、喪失と再生の物語。(Amazonより引用)

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 いやぁ、面白かった! 

 最近は読書するとすぐ疲れてしまい、少しずつしか読み進められなかったけど、この本は一気読みしました。 

 主人公・幸夫は、文化人としてテレビにも出演する人気作家、でも、彼の妻との関係は冷え切っていて、亡くなっても涙が出なかった。むしろ、妻が亡くなった日に他の女性と関係を持っていたという、なかなかにアウトな状況。 

 今の時代だったら完全に炎上案件。でも物語の舞台は十年ほど前。まだ隠すことができる時代だった。だからこそ、幸夫も自分の気持ちに蓋をしてしまう。

 そんな中で、亡くなった妻の親友の子供たちの世話を申し出る。最初は「なぜ?」と思う展開だけど、西川美和さんの筆力で、気づけば自然と納得できる流れになっている。

 子供たちと過ごすうちに、幸夫は少しずつ変わっていく。

 そして、物語はある印象的な描写にたどり着く。

 「唯一完全に欠落していたパズルの一ピースが埋められた気がしていた」

 つまり、幸夫は 子供たちへの愛を通して、全能感を得てしまうんですよね。

 でも、その振り幅が大きすぎたからこそ、次に来るのは「喪失感(今度は本物)」だった。予想通り、彼はまたしても転落する。そして、最後にたどり着いたのは 「書くこと」 だった。

 彼が愛した女性との関係は、結局「書くこと」で始まり、「書くこと」によって彼はその存在を受け止める。最後の決断も、そこに行き着くのが印象的でした。

 この物語のすごいところは、感動を与えた後に、その裏側や本音を見せつけてくるところだと思います。単純に「愛とは素晴らしい」とも、「喪失は悲しい」とも言い切れない。 

 それでも、最後に主人公が言う 「人生は他者だ」 という言葉が、強く胸に刺さりました。

 人は、自分ひとりでは完結しない。他者との関係の中でこそ、自分が何者なのかを知る。そして、その関係を描き出すのが、作家の役割なのかもしれません。

 この本を読むと、「自分も小説を書いてみたい」と思う人もいるかもしれませんね。

 喪失を経験し、愛を知り、そしてまた喪失する。そうしたループの中で、本当に大切なものに気づく瞬間があるのかもしれません。


 令和ロマンさんの話に戻りますが、もし彼らが十年前の芸人だったら、カジノの件もそこまで騒がれなかったのかもしれませんね。

 でも、今は「すべてを曝け出すこと」が求められる時代。むしろ、それを受け入れて乗り越えていくことが、新しい時代の生き方なのかもしれません。



 今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 素敵な時間を過ごされますように。 


  願いを込めて。

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