夢路のドライブ 北海道旅行編・最終話 ~ルベシベの丘としらかば最終処分場~



 北海道旅行最終日、富良野線沿いに富良野国道を南下していく。朝5時にホテルを出たときは、そうでもなかったが、ここに来て視界が悪くなった。霧が出てきた。この分では、今日は十勝連峰は見えそうもない。

 思えば、この3日間、時間がないと言っては急がせて、山の中を未明から日暮れ過ぎまで走らせて、容赦なく働かせてしまったものである。最後くらいは、のんびりと、一緒に景色を楽しみながら、走りたいものだと思っていた。

 そうも言ってはいられないようだ。コルトは千歳空港すぐそばのレンタカーの営業所に11時までに返さなければならない。天気も怪しそうだ。

 朝食も取らずに進んでいく。旭川から富良野を目指す。
 いつか、「今生の別れ」を予感した友人との電話の際に、脳裏に浮かび上がった場所が富良野なのである。

 

朝5時、富良野・美瑛方面へ
右手の建物は旭川合同庁舎

旭川より約4kmの上川神社に立ち寄る
写真は菅原道真を祀る天満宮の上川神社境内社

こちらが上川神社社殿 大正4年~13年建築

富良野線沿いの富良野国道

電車が来ればいいのだが

残念ながらまだ走ってないようだ

富良野国道をどんどん南下する
ここは美瑛駅の少し手前辺り

美瑛町の看板

ルベシベ(留辺蘂)の標識発見


 美瑛駅を過ぎた辺りで、アイフォンが鳴った。充電が完了すると告知音を鳴らすのである。私はシガーソケット式のUSB充電器を付けたままにしていた。
 ただしこの充電完了のお知らせ音は「至る所」で「鳴る」し、またはとっくに充電が完了していても全然「鳴らない」ので、私はアイフォンが鳴る時は気をつけて辺りを見回すようにしている。たいていは何かが起こる前触れのようでもある。(車を止めて降りた途端にキタキツネが現れる、ということもあった)
 スピードを落として走る。T字路の標識が目に入った。車を止めて、よく見ると、「ルベシベ」と書いてある。矢印付きだ。こちらへ行けということだろうか。それにしても、何だろうか、留辺蘂? 地名だとは思ったが、予習が足りなくてピンと来ない。とりあえず行ってみようと矢印の方向へと進んでいく。

 緩やかな登り坂の道が続いている。300m走ったか走らないかというところでまたアイフォンが鳴った。スピードを落として注意深く見回すが、どう見てもただの田舎道である。やはりただの偶然か。もう200m進むと道が二つに分かれていた。登り道から逸れて右に行くと、「しらかば最終処分場」と書かれた正門の真ん前にたどり着いた。コルトを止める。

 「しらかば最終処分場」

 さすがにその名前にぎょっとした。昨日、白水沢の林道の行く末を考えていたところである。その名前から白樺等の(伐採した)樹木を処分している場所ではないかと想像したのである。が、よく見ると、敷地の周りに白樺の木々が立ち並んでいる。豊かに茂って、なかなかの爽やかな景観である。単に白樺にちなんだ命名だろうとすぐに思い直した。

 帰宅後調べたところ、「しらかば最終処分場」というのは一般廃棄物の最終処分場だそうだ。それこそ、その名の通り、ごみとなってしまったものが最終的に行き着く場所である。再利用できないもの、再資源化が困難なもの、その最後のごみを、この白樺のもとに埋め立てるのだ。白樺に見守られた墓場というわけである。

 自然に背いて再利用できないものを作り、使っておきながら、最後は自然の中に埋めて、わざわざ周りを白樺で飾る。廃棄物の埋立地を白樺だらけにする優しさがありながら、廃棄物を生み続ける、自然のサイクルを無視する。墓場を見守る白樺こそいい面の皮である。
 
 原子力だって、昔は再生可能エネルギーとか何とか謳われて、リサイクルできるものだと信じられていた。今はそんなことを信じるものは誰もいない。ただの神話であることを全員が知っている。再生可能な、自然に優しい、安全なエネルギーだなんて、そんな合唱が始まり出したら怪しいものだ。また最後の処分を白樺に看取らせるのが関の山ではないのか。

 白樺豊かな「しらかば最終処分場」から、人間とは不思議なものだなぁ、等と感心させられたのはこれも帰宅してからで、その時は、どうやらここが「白樺の死刑場」ではないであろうことに安堵して、もしくは、なぜここに今立っているのか、少々拍子抜けした面持ちで、コルトに戻り、富良野国道へ引き返そうとする。するとまたアイフォンが高鳴るのだった。

 今度は連続して鳴る。あまり激しいので、徐行しながら身を乗り出した。ふと右手に道が見えた。舗装されていない農道のようで、その奥は深い森のように緑に覆われている。ふと、福島の道で迷った際に、突然切り取られたようにぽかりと森の入口が現れたことを思い出した。(まるであんな感じに唐突に感じられたのである)コルトが走れる道なのか怪しいところだったが、思い切って木々の茂る中へハンドルを切った。



しらかば最終処分場



舗装されていない農道を進むと、突然視界が開けた


中央の緑と茶色のパッチワークのような田畑の前から
丘を上がったところ


本来なら旭岳が一望できるそうだ

丘の上に農道が続いている

ルベシベの丘からの眺め

もっと晴れてたらもっと綺麗だったろうに

西方面が幌内山地の麓 ルベシベの丘

東方面が十勝連峰の麓 美馬牛方面



 ・ルベシベの丘についてはこちらがわかりやすい(地図と写真付きです)
 
  ルベシベ方面マップ




この右手にパフィーの木があったらしいが見逃してしまった

丘を一気に下っていくところ


 木々の中を通り過ぎると、水たまりと石・・ というよりは岩がゴロゴロ敷かれている農道が現れた。横手に民家が一軒、それで終わりである。いや、水たまりと岩の細い道は続いてはいるのだが、どう見ても道の状態が悪くて車は通れそうもない。コルトを農家の前に止めて、歩いて様子を見に行った。すると、100メートルも歩くと、視界が開けて、突然だだ広い農場の前に放り出された。驚いた。左右は丘になっていて、その高台に車が通れそうな道があるようだ。
 これは是が非でも行かなくてはならない。なんだかわからないがものすごく北海道らしい眺めである。走って戻って、コルトを緩やかに発進させた。恐る恐る走る。(あとで調べたところ、やはりここは車の進入は無理だそうだ)水たまりを避けきれず、大げさな水しぶきが上がる。コルトの小さな車体が上下に激しく揺れる。やっとのことでルベシベの丘にたどり着いた。

 時期が時期だったら、もしくは天気が良かったら、もっと北海道らしい眺望が拝めたのだろう。それでもその広大さを感じるには十分だった。何とも気持ちのいい場所である。

 富良野の北のガーデンはまだ営業時間にならず(8時より入園である)残念ながら立ち寄れなかったが、それでも富良野国道と、このルベシベの丘で、だいぶ北海道らしい気分を味わうことができた。多少ながら、夢の実現らしき感動も覚えることができた。
 もう十分だ。当時の私なら、きっと彼女へこう言うだろう。「ありがとう、気持ち良かったよ」
 私は西に逸れて、夕張岳方面へ向かった。
 


富良野国道 ラベンダー畑駅を過ぎたところ

富良野国道 富良野駅を通り過ぎる

北海道道135号線から夕張国道へ向かう途中 雨が降ってきた

北海道道135号線(美唄富良野線)

夕張国道に突入 ワイパーを最速にしてもすぐに
10円玉大の雨がフロントガラスを叩きつける

夕張国道 雷も鳴る ほとんど嵐状態


三笠市 桂沢湖近く 山深い場所で橋が連続する

北の沢橋 一息橋 希望橋・・ 
北の沢橋で降りて夕張岳方面を撮る





撮っていたら雷鳴が轟いて驚かされる

それにしても深い緑







お隣の一息橋にも行ってみる

やっぱり緑ばかり・・



よくもこう生えるものだ・・すごい

下の方に沢が見える

写真下に流れているのが沢




前方右手に待っているコルト


 富良野国道から道道135号線(美唄富良野線)に入った頃から、景色は一変して、広大な農場から山深いそれへと変わった。まるで山の麓の原生林のど真ん中といった有様である。
 またその景色の変化と同じくして、空模様が一変した。・・いや、一変というほどでもないが、怪しかった空模様がついに堪えきれずに爆発して、大粒の雨を叩き落とし、雷鳴を轟かせるのであった。

 最後の最後にとんでもないことになってしまったなぁ、この嵐の最中の山奥でガソリンが切れたらどうしようかな・・ とEを指し底を尽きかけたメーターを見やりながら、ドラマチックだなぁ・・と他人事のように思う。

 本当はかなり焦っていた。コルトの返却時間までに新千歳空港に着くかどうかも時間的にぎりぎりで、本当は心配していたのだが、それより何より、この桂沢湖近くの三笠市の山奥ぶりに感嘆させられっぱなしだったのである。

 これはすごい資源だ。さぞや林野庁が喜ぶだろうなぁ・・
 
 ところで、私は未だ昨日の白水沢林道が作業道と呼ばれていることに腹を立てているのである。1日経ってあらためて思い出したら愕然としたのだった。あの立派な森がどうして作業道だ、誰が決めたんだ、と・・

 森は資源になるという。林野庁によれば、それは水源資源として、レクリエーションや文化機能を発揮するものとして、公益を生み出す貴重な国の財産であるという。
 林野庁は25年度から森林の管理経営に積極的になったのである。(基本方針によると、機能類型区分(森林の取り扱い)が、平成25年4月1日から国有林野事業が一般会計へ移行するのを機に、『公益重視の管理経営の一層の推進を図る』とある)
 
 また、これを機に、国有林を国民に開かれた森林(もり)にすると謳っている。



(3)国民の森林(もり)としての管理経営
① 双方向の情報受発信
開かれた「国民の森林」としての管理経営や国民視点に立った行政を一層推進するため、森林環境教育の活動支援等を通じて、森林・林業に関する情報・サービスを提供するとともに、国有林野の管理経営の指針や主要事業量を定めた「地域管理経営計画」等の策定や変更に当たり、計画案を広く公表して国民の意見を聴くなど、双方向の情報受発信による対話型の取組を進めています。


1.国有林野の管理経営に関する基本方針に基づく管理経営の推進より


環境庁がダメなら林野庁に聞いてみたらどうだろうか。地熱発電よりも、白水沢地区は、より資源として有用であると。
 ちっぽけな、発電電力量の微量な、再生エネルギー(しかも再生できるか怪しい※)よりも、今や世界では水資源の争奪戦が始まっているのだ、水資源や観光資源として見たほうが長期的に考えたらおトクなのではないか、と。その方が『公益重視の管理経営』に適うのではないか、と。

※資源エネルギー庁によると、地熱発電は「持続可能な再生可能エネルギー」とあり、その理由として、「地下の地熱エネルギーを使うため、化石燃料のように枯渇する心配が無く、長期間にわたる供給が期待される」と書いてある。よく読むと、再生可能エネルギーの定義の根拠は、「期待され」ているだけではないか。枯渇する心配がない、というのは本当に神話ではないのか。試してみてからでは遅すぎることは原子力発電で実証済みだ。よくよく検討して頂きたいと思うところだ。

 引用元 http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/renewable/geothermal/ 2013.10.27



 国有林は、国民の森として開かれたものであるという。ならば、ぜひ国民視点に立った行政を推進してもらい、何が私たちの本当の公益となるのか、ぜひ対話をしていきたいものである。

 山奥の、緑の地に誓う。この森は、私たちのものだ。
 来年また、白水沢林道に必ず行こう。北海道にまたぜひ来ようと思う。


桂沢湖近くを通り過ぎる

岩見沢市へ突入

セイコーマート キターー!!

新千歳空港もすぐだ!

最後に田園風景を・・

空港近くで雨が上がった

サッポロビール庭園

お、新千歳空港が見えた


出発が遅れたので、のんびり食事
北海道ハスカップを購入

未だ点検中 どうやら飛ばないらしい
心配して見守っていたが、代替えの飛行機が飛ぶようだ

こちらは北海道とうきび茶

最後にセイコーマートのゆでとうきび!


 コルトは11時を5分程回ったが、無事営業所へ返すことができた。
 小さな傷だらけだったコルト、初日に絶対傷をつけないようにしよう、と誓ったが、随分無理をさせたようだ。大丈夫だっただろうか。
 私は心配しながら整備スタッフの挙動を見守ったが、若い彼女はにこやかに笑って、

 「大丈夫ですよ」

 ほっと安堵した。私は振り向きもせずに受付カウンターへと向かい、二度とコルトを見ることはなかった。今思えば、最後の挨拶くらいすれば良かった。この場を借りて、

 ありがとう、コルト。
 楽しい夢のドライブを、叶えることができました。

 
 飛ぶはずだった飛行機は、天候のせいだろうか、点検、整備を重ねて、ついに飛ばなくなった。東京発は、1時間程延びたあとに、別の飛行機で適えられることになった。
 その間に私は、やっと朝食兼昼食にありつくのだ。そうだ、一服もしていられなかったのだった・・
 私に休憩を与えてくれた点検中の機体の前で、最後のセイコーマートのとうきびを食べる。やっぱり美味しい。これが一番美味しかった。
 

 「お客様、何になさいますか?」
 機内に着いて、北海道の地を飛び立つと、程なくして、キャビンアテンダントが現れた。彼女は、綺麗な笑みを浮かべて言う。

 「スープを」と私は答えた。
 出来るだけ、同じように、綺麗に微笑んで言ったと思う。そのすぐ後に、隣の若い女性二人がコーヒーを頼み、一瞬自分を老いたように感じたが、いや、いいのだ、いいのだ、温かいスープは疲れた体に染み渡るようだ。
 スープを飲み終わると、すぐに私は眠気に誘われる。微睡んで、先日見た飛行機の設計士の映画を思い出すのだ。あれはいい映画だった。そうだ、こんな機体の、こんな翼の上を、器用に歩いていたんだっけ・・

 夢見るように、眠りの中に落ちていった。










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