まっすぐ上を向いて歩こう! ~人間賛歌・岳を見終えて~

 





  『岳』を見に行ってきました。映画館は久しぶりです。

  山岳の映画だと、2009年の『劒岳・点の記』の印象が強く、未だ私の中で健在です。あの映像のスケールを上回れるものは簡単に創れないだろうな、と、レベルの低さを覚悟して出かけました。
  俳優陣も小栗旬と長澤まさみというのがどうもパッとしない。どちらも(小栗旬は過去に、長澤は現在進行形で)ファンなので、個人的には楽しみなのですが、二人の役者としての性質上、本格派山岳映画というイメージには程遠く感じられました。
  で、まぁ、北アルプスを眺めに行くだけでも、1,800円は安いな。
  そんな気持ちで出かけたわけです。


  初っ端、スティーブン・キングのホラー映画のような始まりです。
  一人の青年が、疲れから気を抜いて、山の危険を見くびってしまう。警鐘を鳴らすような不気味な音と映像が流れます。あ、次、やばい展開が来るな、と思う間もなく、青年はあっけなく遭難。で、山岳ボランティアをしている主人公、島崎三歩(小栗旬)が登場するわけです。

  この遭難する青年、ラストにも出てくるのですが、とても良かったですね。映画のプロローグとエンディングが彼のおかげで光っていたように思います。小栗旬との絡みのエピソードも爽やかでしたね。
  それは置いておいて、で、初っ端から、これは、思ったほど軽い映画ではないな、期待できるかもしれない、といういい予感が訪れます。
 
  山の映像も見事でした。CGになるべく頼らず、実写を試みたそうですが、山の魅力を隈なく伝える点では点の記にはかないませんが、雪山の(北アルプスの)空撮が素晴らしかったです。
  山に興味のない方も、あの映像は見てほしいですね。
  日本はこんなに美しい山脈を持つ国であったかと、驚きを持って見入りました。今までの人生で中で培ったすべての認識を、あの標高3190Mの絶景で覆されそうな思いがしたものです。
 
  たとえ死と隣り合わせになろうとも、あれでは何度でも、


  「また、山へおいでよ。」(また、山に行こうよ!)

  という気持ちになるのも納得です。

  「山そのものだ」として描かれる三歩のキャラクターも良かったです。
  小栗旬の役作りによる、天真爛漫な山バカの主人公も魅力的でしたが、彼の「山を生き抜くための装備」が死ぬほどかっこ良かった。
  これは私のいつもの持論と仮定なのですが、山が人生そのものだとしたならば、彼の装備は過酷な人生を生きる上で必要な装備です。
  しかも彼はボランティアとはいえ、山岳救助を使命としています。その彼に必要とされる装備は、山(人生)での命を賭けた戦いにおいて、必要不可欠の武器そのものだと感じられました。
  そうですね、ハーケン、ピッケル、数々のカラビナにヌンチャク、アイゼン、ロープにハーネス、そして、小栗が着るアウタージャケットやナップザックまでもが、私にはヒーローの装いの一式に見えたものです。あの、変身!という、ヒーローもの、戦隊ものの主人公ですね、笑。

  もしもあれが、登山用品のメーカーのCMを兼ねているならば大成功だと苦笑しました。
  絶対に欲しい。彼のように縦横無尽に山を走ってみたいものだ。
  切実に思わされました。


  ジムに行く回数も、ジョギングも増やして、自らを鍛えたいものだと。あのような戦いの装備が似合う人になれるようにと。


  で、山岳の映像と、装備の素晴らしさに感動した映画ですが、ストーリー自体はお粗末でした。
  物語の前半、すべての時間は山岳救助隊の新米、長澤まさみが壁に突き当たり挫折するエピソードに使われます。幼い頃に山で父親を亡くして、そのうえで山岳救助隊員を志願したという割には、覚悟がまったくありません。彼女の焦りや(三歩や遭難者に対する)いら立ちが、まったく共感できずに、不愉快にすら感じられました。

  成長物語として、成立させたいにしても、無理があるように思います。(そもそもそこで挫折するならば山岳救助隊員を志願しないだろうと誰でも思いますよ)

  物語の後半は、雪山での猛吹雪により、多重遭難が起こります。その救出劇が手を汗握る展開に・・・なるはずなのですが、まったく非現実的で緊張感もありません。

  映像に拘るあまり、脚本に手を抜いたか、あれでは原作者も納得がいかないのではないかと想像しましたが、どうですかね。原作は読んでいないので何とも言えませんが、おそらく漫画を実写化したからという理由からではなく、映画としての物語自体を端折り過ぎではないかと思う場面が多々ありました。(例えばなぜ、長澤と遭難者の父親がクレパスに落ちたか描かれていません。小栗や山岳隊員たちの救出劇もです)

  それから、空の男の昴エアレスキューパイロット、牧の描かれ方も残念でした。もう少し、丁寧に、見せてほしかったですね。せっかくのいいキャラクターが思ったほど活きていないように思われました。

  不満はあるものの、それらを差し引いても、いい映画です。
  ヒューマンドラマです。三歩の笑顔と、無垢な、徹底した、人間賛歌に心を打たれます。

  いい笑顔でしたね。人を愛したく、助けたく、思いました。もっと三歩のように強くなりたいですね。

 

  最後に、個人的にとても教訓になった話です。


  「山に捨てちゃいけないものは?」


  答えはゴミと命です。


  いつか、生きることがしんどくなったら、山に行って死のうとずっと思っていました。
  人は生かされている。私は生かされて、今ここにいます。でももしも、生きることが適わなくなったら、その時は静かに受け入れて、自ら死を選ぶつもりでした。
  そして、その時は、大好きな山で死にたい、そう願っていました。

  思わず笑みが出ましたよ。そう言えば、山の立場からしたら、酷い話ですね。
  ゴミと命を簡単に捨てられちゃ、かなわないなぁ。


  自分がどこまで身勝手だったか思い知らされました。
  ゴミと命は、決して山に捨てないよう心がけて、人生・・
  いや山と、戦っていきたいと思います。








 

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