女たちはババヤガになるーー「ババヤガの夜」感想。
こんにちは、ららです。
今日は王谷晶さんの小説「ババヤガの夜」を読みました。
「ババヤガ」というのは昔話に登場する魔女や老婆のことで、
この小説では、男社会に依存する心優しいお姫様ではなく、
強くて、カッコいい鬼婆(化け物)のような女性を示しています。
女たちの生き様を抉るように描いた怪作、
ーー予想をはるかに超えて面白く、衝撃的な作品でした。
舞台は、非情で、暴力にまみれたヤクザの世界。
戦いの描写も残虐でありながらも、徹底して巧みに書かれており、
ページを捲る手が止まりませんでした。
作家は女性、王谷晶さん。
その事実に驚くほど、描写は剥き出しで容赦がなく、
まるで北野武監督の映画を観ているかのような体験でした。
※この先はネタバレを含みます。未読の方ご注意ください。
ババヤガの夜(王谷晶)
【あらすじ】
◎日本人初の快挙! 世界最高峰のミステリー文学賞 英国推理作家協会賞(ダガー賞)翻訳小説部門 受賞
世界が息を呑んだ最狂のシスター・バイオレンス・アクション!
「めちゃくちゃブッ飛んでて最高に血まみれ、これはヤバかった! 『キル・ビル』とか『ジョン・ウィック』っぽい雰囲気の本を探してるなら、もうこれ一択」 ——@thespookybookclub
「怒り、ユーモア、スリル満載」― The Times紙
「激しい暴力と素晴らしい優しさが交互に訪れる」― The Guardian紙
「女の力を描いた、シャープでストイックな物語」― Los Angeles Times紙
「手に汗握る、壊れないスリラー」― Tokyo Weekender
「優しくも怒りに満ちたこの犯罪サーガは、オオタニの次作を待ち望まずにいられない」― Publishers Weekly
暴力を唯一の趣味とする新道依子は、関東有数規模の暴力団・内樹會会長の一人娘の護衛を任される。二度読み必至、血と暴力の傑作シスター・バイオレンスアクション、ついに文庫化。 装画:寺田克也/解説:深町秋生(Amazonより)
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・骨と肉だけの文章に震える。
海外の賞を受賞しているという前情報を見て、読み始めましたが、
正直そこまで期待していなかったのですが・・。
ところが、読み始めてすぐにその評価が本物だとわかりました。
無駄な贅肉を一切削ぎ落としたような、骨と肉だけの文体。
それがバイオレンスに満ちた世界観に見事にマッチして、
甘さや情を寄せ付けないまま、微かな哀しみだけが余韻に残ります。
かつてネットで見た、ふくよかな作者本人の姿が脳裏に浮かび、
「精神と魂は、外見とはまったく関係ないのだ」と深く感じました。
・男社会を撃ち抜く女たち
特に印象的だったのは、あるヤクザの男・柳のセリフです。
「お前のいうことなんて誰が信じると思う。
この業界はな、こと信用においては、聖母マリア様よりも、乞食泥棒でも男の方が上なんだよ」
その言葉に、新道依子がこう返します。
「ガキじゃないんだ。そんなことはとうに知っている。
何がこの業界だ。世の中みんなそうだろう」
このやりとりに、物語のすべてが凝縮されている気がしました。
女性は、ヤクザの世界に限らず、男の社会の中でいいように扱われがちです。
被害妄想などではなく、それが現実として容赦無く描かれている。
その上で痛快だったのは、そんな世界で依子がどう生きるか。
信念を貫き、自分の軸で動く依子。
暴力の中で、血が踊るように生きる依子。
そして、まさにババヤガのそのもののような存在感を手に入れる依子。
やがて彼女は、ヤクザの娘・尚子と共に逃げ出し、
愛でも憎しもでもない静かな情を育みながら、長い年月を共にします。
この女二人の関係性に胸を打たれました。
男社会から逃れ、女として生き抜くということの困難さと孤独が、
深く胸に迫ってきます。
ババヤガとなった二人。
その代償と映るラストシーンも、まるで一枚の絵のように美しかったです。
少しぶっ飛んだ設定と過激な暴力描写ではありますが、その裏に宿る精神性の美しさに触れられる一冊でした。
これはただのバイオレンス小説ではなく、「女であること」を真正面から描いた、壮絶で美しい人生の記録です。
ぜひ、おすすめしたい作品です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
今日も穏やかな一日となりますように。
願いを込めて。



