腐臭の迷宮を超えてーー「族長の秋」読書登山録。

 

 こんにちは、ららです。


 今日は「百年の孤独」で知られるマルケスの長編小説、「族長の秋」を読みました。

 登山に例えるなら、これはかなりの難易度を誇る山。

 読み終えたときは、まるで山頂にたどり着いたかのような達成感がありました、笑


 「族長の秋」は、顔すら知られていない独裁者の生涯を描いた怪作で、マジック・リアリズム全開の作品です。




 族長の秋(ガブリエル・ガルシア=マルケス)


 【あらすじ】

 ダイナマイトを愛する残虐な大統領が死んだ。 

 誰も顔を見たことのない独裁者が…… 

 『百年の孤独』を凌駕する怪作 

 無人の聖域に土足で踏みこんだ「われわれ」の目に映ったのは、ハゲタカに喰い荒らされた大統領の死体だった。国に何百年も君臨したが、誰も彼の顔すら見たことがなかった。生娘のようになめらかな手とヘルニアの巨大な睾丸を持ち、腹心の将軍を野菜詰めにしてオーブンで焼いて宴会の主菜にし、二千人の子供を船に載せてダイナマイトで爆殺したという独裁者——。政治権力の実相をグロテスクなまでに描いた異形の怪作。(解説・池澤夏樹) 

 無限マジックリアリズムで酸欠必至!ようこそ、栄華と腐臭の迷宮へ。(amazonより)

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 ・初めは腐臭に耐えかねるが、徐々に世界観にハマる

 影武者を失い、初恋の人を失い、唯一の腹心を失い、母を失い、妻と子供を失い、恐怖政治を陰で操る側近を失い、

 そしてついには、自身の存在理由であった海すら強国に奪われる・・・

 それでもなお、権力にしがみつき続けた哀れな独裁者の物語。


 序盤は読むのがつらかった。

 猥雑さ、糞、虚構、死臭にまみれた汚れた世界が延々と続き、

 まさに迷宮の中をぐるぐる回り続けているような錯覚。

 とにかく、気分が悪く、読む手が止まりかけたこともある。

 ところが、失うものを失い尽くした果てに漂う、孤独の深さが、

 この作品独自の耽美的な世界観へと読者を引きずり込んでいく。

 

・作者の筆力が、魔法級にすごい!

 汚くて残虐な世界、視点が移り変わり、話し手も時代もコロコロ変わる。

 現実と虚構と幻想が入り乱れた物語。

 なのに、なぜここまで心を掴まれてしまうのか。

 なぜ、耽美的だとすら感じるのか。

 この混沌とした物語を読ませてしまう作者の筆力は、まさに魔法。

 いつの間にか私は独裁者の深い孤独に魅入られ、

 目を背けていた汚物まみれの世界を生きていた。

 胸を痛む。

 カタルシス無いの世界なのに、

 不思議と、無いことそのものにカタルシスを感じはじめていた。


 ・日本に匹敵する作家はいる・・?

 あまりに凄すぎて、つい日本人作家のことを考えてしまった。

 村上春樹さんはノーベル賞候補として名高いけれど、

 このレベルの深い孤独をここまで描き切っているとは思えなかった。

 そう考えると、日本の文学の限界を少し感じてしまう。


 けれど、

 だからこそ、マルケスの「孤独の描き方」の凄さに心を打たれた。

 彼の筆が憐れみに満ちているからこそ、

 この物語の孤独が身につまされるのだと思う。

 日本文学にも、古典の中にはそうした憐れみの深さを描いたものがあるかもしれない。

 今、ふと、そんな気がした。



 ノーベル賞作家による、マジック・リアリズムの真骨頂。

 間違いなく面白いけれど、登山のように体力と集中力が必要な一冊。

 余力があるときに、ぜひ読んでみてください。 



 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 今日も素敵な時間を過ごされますように。

 願いを込めて。





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