心の原風景を描く童話、安房直子さんを読む。〜あるジャム屋の話(再読)〜
こんばんは!
今日は、懐かしい童話を再読しました。
安房直子さんの「あるジャム屋の話」です。
安房さんは1943年生まれ、1993年に早すぎる別れを迎えた童話作家で、
「きつねの窓」、「天の鹿」、「遠い野ばらの村」など、
数々の美しく切ない物語をこの世に遺されました。
あるジャム屋の話(安房直子)(再読)
【あらすじ】
心がぽっとあたたかくなる安房直子絵ぶんこシリーズ最終巻! 森の中の小さなジャム屋。ジャムの味はとびっきりなのにちっとも売れません。どうしたものかと困っていたら、ある夜、思いもかけないお客さんがやってきて……。鹿の娘と人間が心かよわせる恋のお話です。
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・安房さんとの出会い
安房直子さんと出会ったのは、もう20年ほど前のことです。
あるインターネットサイトで、「天の鹿」という童話を紹介している記事を見かけ、心惹かれるままに本を手に取りました。
その時の衝撃は、今でも忘れられません。
涙なしでは読めないーー そんな童話が本当にあるのだと知った瞬間でした。
あまりにも美しくて、懐かしくて、心の奥にそっと触れてくる作品でした。
それから私は、図書館や書店で安房さんの作品を読み続けるようになりました。
・絵ぶんこシリーズ9「あるジャム屋の話」
今回読んだのは、絵ぶんこシリーズ9巻、「あるジャム屋」です。
森の奥でジャム屋を営む一人の青年が主人公。
人付き合いが苦手で、仕事もうまくいかず、ひっそりと開いたお店。
けれどいくら腕をふるっても、ジャムはちっとも売れません。
そんなある日、美しい雌鹿が現れ、青年の元へ通うようになります。
不思議な交流を重ねるうちに、青年の運気が少しずつ変わっていくのですがーー
この展開、どこか宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」を思い出させます。
ただし、安房さんの描く世界には、寓話的な抽象性よりも、もっと肌ざわりのある恋が流れています。
二人の間に芽生える、静かでほのかな愛情に、心がそっと揺れました。
・異種間の恋愛=神との愛情
安房直子さんの物語には、よく「動物神と人間の恋」が登場します。
「天の鹿」では、優しい娘と牡鹿が心を通わせ、娘は人間界を離れて神の鹿となり、父親と涙の別れをします。
「あるジャム屋の話」でも、鹿は「神の使い」のように描かれ、どこかこの世界とは別の、許されぬ愛を体現しています。
けれどそれは、ただ悲しいだけではなく、なぜかとても懐かしい。
それはまるで、子供の頃の記憶。あるいは、遠い前世の記憶。
心の奥に深く眠る「原風景」を、静かに揺り起こされるような感覚です。
物語の終盤、娘は青年のために人間の姿になる決意をし、姿を消します。
青年は「鹿のままでも良かったのに」と深い寂しさを抱えながら何年も過ごします。
そしてようやく、森の小屋の扉がノックされる時ーー
二人は、もう二度と離れませんでした。
それは童話としてのハッピーエンドかもしれませんが、
ここまで深く心に沁みる結末は、なかなか出会えるものではありません。
きっとあなたにも、この物語はどこか懐かしく感じられるのではないでしょうか。
秋の夜長に、ぜひ読んでみていただきたい一冊です。
最後まで読んでくださり、どうもありがとうございました。
今日も、心あたたまる素晴らしい1日となりますように。
ささやかな願いを込めて。