「紙の月」と宇多田ヒカルにみる、自由と堕ちゆく心のゆらぎ。

 

 こんにちは!

 宇多田ヒカルさんが「令和何年になったらこの国で夫婦別姓OKされるんだろう」という政治的な歌詞を歌って話題になっています。

 Xではいろいろな意見がありました。アーティストとしてはあまりにも直接的な表現に失望した。どこかからお金をもらっているのではないか。賛成しているように見せかけて、詩全体を読むとこれは否定しているのではないか。そして、結婚にとらわれない、新しいかたちで関係を築いていく大人の歌だ、という意見もありました。

 宇多田ヒカルさん、ずいぶん変わりましたね・・。


 そんなことを思いながら、私は、大人の恋の物語を読んでいました。

 宇多田ヒカルさんの歌のように、今までの枠組みにとらわれない大人の女性と、若い青年の自由な恋の物語でした。

 違うのは、女性がお金に支配されていたことでしょうか。

 女性は若い男性に釣り合う自分となるために、化粧品や洋服やエステにお金を使い、二人の時間を贅沢に過ごすためにまたお金を使い・・・

 





 紙の月(角田光代)

【あらすじ】

 ただ好きで、ただ会いたいだけだった―――わかば銀行の支店から一億円が横領された。容疑者は、梅澤梨花四十一歳。二十五歳で結婚し専業主婦になったが、子どもには恵まれず、銀行でパート勤めを始めた。真面目な働きぶりで契約社員になった梨花。そんなある日、顧客の孫である大学生の光太に出会うのだった・・・・・・。あまりにもスリリングで、狂おしいまでに切実な、傑作長篇小説。各紙誌でも大絶賛された、第二十五回柴田錬三郎賞受賞作、待望の文庫化。

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 ・感想は・・

 「ウシジマくん」文学版でしたね・・。いつの間にか戻れないところまで転がり堕ちていく女性のリアルな物語。

 人物や感情の掘り下げ方が深くて、どこにも救いのない登場人物たちがこれでもかと出てきます。始終心がザワザワして、読むのがしんどいのに、ついつい怖いもの見たさでページをめくってしまうという・・。結局は一気読みでした。なんとも巧い、読ませる作家さんです。

 この物語を読んでいると、お金に支配されていることが本当に恐ろしくなり、自分もお金から自由になりたいと切実に考えさせられました。


 ・印象的なシーンは・・

 怖かったのはGWに高級ホテルで散財するシーンですね。いくらなんでもやりすぎだと感じるのに、主人公の梨花はいつの間にか、こちら(高級ホテルにいる自分たち)が現実ではないかと思えてしまうのです。

 そして、いつもの日常こそが、現実より酷い夢なのではないかと思えてきてしまう。もうこうなったら手に負えません。元に戻れなくなるまで転がり堕ちた人間の典型だな、と思って背筋が凍りました。


 次に、初めての間違いを犯すシーンでしょうか。そのとき梨花はデパートの百貨店をたまたま通り抜けただけだったのですが、化粧部員に声をかけられて足を止めてしまった。高級化粧品を客のお金で買ってしまいます。

 梨花は恋に浮かれていました。正確には、若い男に気のありそうな言葉をかけられて、その言葉で心が熱くなっていた。

 「初めて会った時、いいなと思った」と若い青年が言ったのです。

 転がり堕ちる最初の一言(きっかけ)がこれです。ここから全てが始まります。

 恐ろしい。男の言葉は魔物だ、と心底思いました。


 ・まとめに・・

 とにかくお金にまつわるいろんな方々の物語が楽しめます。
 経済的なことを見つめ直すチャンスを見つけたい人にはとても刺さる、良い小説なのではないでしょうか・・

 私もちょっと家計を考え直そうと思いましたね・・・

 そして最後に、大人の恋もいいですが、堕ちる時というのは自分だけじゃない。必ず周りに迷惑をかけるということが身に染みて理解できました。

 梨花の周りの方々と、そして世間に与えた衝撃を思うと、身につまされる思いです。反面教師として、参考にさせていただこうと切に思いました。


 ・最後に宇多田ヒカルさん

 お金に支配されるのと同じように、夫婦別姓の制度云々に支配される人々の怖さのようなものを感じてしまいます。
 
 別姓にしたい人はすればいいし、同姓にしたい人はすればいいというような選択方式でもいいとは最近になって思ったりもします。その方が逆にとらわれないようにも思うからです。

 しかし、いつの時代も、自由をいいことに悪用する方はいて、その辺りは疑問ですが。

 宇多田ヒカルさんも、お金に支配されないように自分の姓の選択にも支配されない自然な生き方を望んだのかもしれませんね。


 今日も最後まで読んでいただきどうもありがとうございます。

 どうかあたたかい時間を過ごされますように。
 心を込めて。





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