醜女の心は美しい。「ボーダー 二つの世界」


 こんばんはー

 今日はまたしてもmovie。

 人間としての選択をする化け物・・・もとい妖精の物語を見ましたよ。

 苦渋の決断、ってよくありますよね。

 この映画、まさにその極地という感じで・・いやぁ、辛い。自分の幸せを放棄してまで人としての正しさを選べるか、という・・なんかカントでも出てきそう。

 そんな難しいことを突きつけておきながら、パッと見、醜女とブ男のポルノ映画みたいだから面白いんですけどねぇ。 

 


 「ボーダー 二つの世界」

 アリ・アッバシ監督。エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ、ヨルゲン・トーション出演。

 【あらすじ】
 その容姿は醜く、染色体異常で性的に欠損を抱えるティーナは、幼い頃から人間であることに違和感を覚えていた。また彼女には人間の負の感情を嗅ぎ分ける特殊な能力があり、その力を生かして税関で働いては、異国からくる罪人を見つけ出していた。ある日、彼女は明らかに負の匂いを発する旅行者ヴォーレと出会う。しかし、彼の荷物に不審なものは何もなかった。おかしいとすれば、彼の体に男性器がなく膣があるということだったが・・・



 なんですかねぇ、ヒロインが映画の主人公とは思えないくらいの醜女なんです。彼女を人間社会の孤独感から救いだすヒーローもめちゃくちゃ不細工な醜男です。
 絵的に辛いです。

 はじめはね、私も容姿のことでかなり悩んで生きてきましたので、ヒロインに感情移入して見ていたんですよ。異質であるという人間社会での孤独感もよく理解できました。
 しかし、彼女には嗅覚という特殊な能力がある。その力を社会で活かすことができている。加えて、どうやら動物とも心を通わせることができるらしい。そして、きわめつけは、なんと中盤に、彼女がトロールという伝説の妖精であることが明かされます。
 もう感情移入も吹き飛んでしまって、へぇー、とばかりに異世界のおとぎ話を見させていただきました。羨ましい限りではないですか。


 特に印象的だったのは、彼女が初めてのセックスをするシーンですね。女としての欠損を抱えていた彼女は、同類であるヴォーレと出会って初めて、性の喜びを得ることができます。その動物がまぐわうような接吻と咆哮。凄まじい迫力がありました。
 そして、性の喜びを得て、この異質だった世界で初めて生を謳歌する二人の、楽園のアダムとイヴのような様が延々と映し出されます。が、哀しいかな、やはり醜女と醜男です。美しいシーンのはずなのに、わざと醜く描いて、観る者に問いかける意地の悪い造りになっています。
 



 彼女と彼の世界が(私たちとは)別の世界だと強く認識し、そして彼女が彼との同じ世界の者同士の絆を深く感じたあたりで物語は急展開を迎えます。

 「生き方を変えるわ。これからはあなたのように生きようと思うの」
 「君は人間社会に馴染んでいる。俺たちの生き方は辛いものだよ・・」(大意です)

 ところが・・・ 

 ヴォーレが人間社会に復讐をしていることが明かされ、ティーナはその非道さに初めてヴォーレに対して怒りや憎しみの感情を抱くのです。

 いやいや、そりゃ他人事のように見ていましたけれどね、これは可哀想ですよね。孤独に生きてきた世捨て人のような醜女の彼女が初めて心を通わせることができた人ですよ。虐げられていた種族の初めて出会った仲間なんですよ。その彼が人間社会的に罪悪人だったわけです。

 トロールとしての奔放な生き方を選ぶか、人間社会の一員としての義務を選ぶか。
 
 結局、ティーナは人間たちへの優しさを選び、性の快楽も生の歓喜もすべてを捨ててしまいます。二つの世界のことを考えて悩んだ末に、同種族を裏切り捨ててしまうんですがね。

 こんなに辛い、健気な選択がありますか。

 ですが、そんな彼女をあざ笑うかのように、最後に、まるで虐待されて死んでいったトロールたちのお墓が映し出されるんですよ。人間の手によって、どれだけ無くなったんだろう、と思わされる数多くのお墓が。もちろんティーナの父と母のお墓も含まれています。



 切ないですよねぇ・・
 本当にこの選択でよかったのか、すべてを捨てて人間を守るべきだったのか。

 放心した彼女のもとに、しかし一つの希望がもたらされます。
 ヴォーレからの小包には二人の赤ん坊が、種族の新しい命があったのです。


 いやぁ、総じて残酷な映画でした。詫びしい劣等種の話かと思ったら、恵まれた選ばれしもののお話だし、いくら他人事とは思っても、やっと出会った仲間を捨てて、自分を受け入れてくれなかった人間社会を守るって、なんかもう切ないですよねぇ。

 でもね、人間にも優しいところがあったんです。ティーナはそのことを知っていた。だから復讐する気にはなれなかった。もうあっぱれとしか言いようがありません。

 おかげで女としての喜びも、人間としての喜びもすべて失ってしまいましたけどね。神様はちゃんと子供を授けてくださいました。まぁ、それだけが救いの映画でしたね。

 芸術作品とか言われているみたいですよ。

 どうなんだろうなぁ、心の美しいものは外見は醜い、と主張してくれているのなら、醜女の私は芸術映画と認定しちゃうんですけどね、まぁ、ポイントはそこではなさそうです、笑


 というわけでまとめです。

 孤独な異形の醜女が仲間と出会って本来の自分を取り戻す映画を見たら、その残酷なラストに驚かされた! やっと完成した本当の完璧な自分は、仲間の人間への復讐により一瞬で泡と消え、さらには仲間よりも(復讐の元である)人間社会を守ることを選択した彼女は、欠損していた物語の冒頭よりもなお深い孤独の淵に立つというなんとも無情な結末・・・

 だが、物語の常で、ラストには新しい命が訪れ、唯一の小さな希望が生まれている。それだけがマシという、あとは本当に残酷な映画です。

 ネタバレでぜんぶ書いちゃったし、あまりお勧めできない映画ですが、変わったファンタジーを見たいときには楽しめるかもしれません。


 ではでは、今日も最後まで読んでいただきどうもありがとうございます。

 素敵な時間を過ごされますよう。

 願いを込めて。




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