余生はどこで誰と生き(逝き)ますか? 移住ブームの特権階級「猫とじいちゃん」。


 こんばんはー

 久しぶりに映画を観ました。

 写真家岩合光昭さんの初監督作品、「ねことじいちゃん」です。 

 


 「ねことじいちゃん」

 岩合光昭監督。立川志の輔、柴咲コウ、小林薫出演。

 【あらすじ】

 数多くの猫が暮らす島、佐久島。大吉70歳は、2年前妻に先立たれた後、猫のタマと一緒に暮らしている。目覚めるとタマは大吉の胸の上、朝ごはんを終えるとタマと島を散歩する平和な日々。そんな時、東京から若い女性美智子がやってきて、島の老人たちは活気付く。美智子が開いたカフェでお茶をしたり、タマと一緒にダンスホールに参加したり。猫と一人の愛おしき日常はいつまでも続くかと思われたが、仲間の死、そして大吉自身も体の不調を覚えて、未来に不安を感じ始めた矢先、突然タマが姿を消して・・



 岩合さんの撮った映画だけあって、猫がいいですねぇ。離島の景色が美しくて、その中でのびのびと自由に暮らす猫たちが愛らしくて、(特に猫好きの人には)まるで楽園のように描かれています。

 住民は老人ばかりなんですけどね、思うんですけれど、これが老人ホームだとしたら、ずいぶん贅沢なロケーションですよね。前世でどれだけいいことをしたんだろう、どれだけ徳を積めば、こんな老後を過ごせるんだろう、と思わずため息が出ましたよ。
 



 老人たちは猫の島の離島で余生を愛おしく感じながら生きている。そこに、若い女性美智子が東京からやってきて、カフェを開きます。




 美しい猫の島で余生を過ごせているだけで、羨ましくてたまらないのに、おしゃれなカフェまでできちゃうんですよ。どんだけー。なんて幸せ者なんでしょう。

 カフェを開く方もそうですよね。よほどの資産があり、道楽商売覚悟じゃないとやっていけない。

 この辺りから、私とは無縁の話だな、とちょっと冷めた目で見るように。

 なんですかねぇ。今や自然の中で暮らすことや、そういう田舎のお洒落なカフェとかって、もうセレブの世界ですよね。一握りの特権を持った人しか味わえない。

 本当は過疎化の田舎の話だと思うんですよ。猫と一人の老後の日常をほのぼのと描いていると思うんです。しかし、過疎化の田舎=深刻な問題といった時代はもう過ぎている。田舎で余生を過ごしたい移住ブームの今、そういった作品にしてはちょっと高級感が過ぎているように思いました。

 それくらい楽園として描かれているんです。岩合さん、猫と田舎を美しく撮りすぎちゃったかなぁ・・・




 東京からやってきた美智子は、企画を頼まれて、ダンスホールを開催します。島はますます活気づきます。青春時代にダンスホールに憧れ、いけなかった老婦人さっちゃんは大喜びです。さっちゃんをダンスホールに連れて行く約束を果たせなかった巌(大吉の幼な馴染み)も、やっと彼女と一緒にダンスができて、幸せの絶頂を味わいます。

 島の楽園は続くかと思われましたが、死と病が彼らを襲い始めます。





 キター、やっと来たました、現実が。
 不謹慎ですが、少々楽園に鼻白んでいたこちらからしたら、やっとリアルに戻ったか、という感じでした。
 ですが、やっぱりちょっと微妙です。老人たちは残されたもののことを考え始めます。この映画の場合、(彼ら自身がすでに残されたものたちなので)残された猫のことを考え始めるんですね。
 巌はどれだけ皆に勧められても、さっちゃんの愛猫を引き取りたくないと頑なに拒みます。自分の死も遠い未来ではないから、猫だってたまらない、と思うのです。

 人間と動物というのは立派な人生のパートナーとして成立している。こんなに美しい自然の環境がもしあるならば、なおさら動物との人生は豊かに成立する。

 少子高齢化の今、もしかしたら新しい未来の形を提案している映画なのかもしれません。




 それにしても、もともと生まれ育った唯一の者たちの特権。移住できる一握りの者たちの特権であることには変わりがないように思われましたが・・・

 まぁ、一応東京に出て行く少女と島を継ぐ若者との恋愛も描かれていて、島の過疎化が深刻であることのアピールされてはいるんですが、それでも、ここで死ぬなら本望だろうな、という冷めた思いは最後まで覚めませんでした。
 猫と共に、田舎の余生を選び取った大吉に、まぁ、そうよね・・と(感動もなく)当たり前のように納得してしまいましたし。



 重ね重ね思いますが、どんだけー。こんな島で余生を過ごして死を迎えられるとしたら、どれだけ幸せな人生なんでしょう。

 歯ぎしりするほど羨ましい日常でした。


 ということでまとめです!

 岩合さん初監督の猫映画を見たら、田舎と猫好きにとっては楽園のようなシチュエーションと映像で、人生のわびさびを感じる余地が全くなく驚いた!

 どれだけ死の影を感じてしまっても、美しい海辺の田舎を闊歩する生き生きとした猫たちが人生の美しさを十分に与えてくれている。これはどこにも行きたくないだろうと納得した。

 少子高齢化の現代で、新しい余生のあり方を提案してくれている映画かもしれないとは思うものの、それを選び取れるものの特権階級を思うと、思わずげっそりしりしてしまう映画であったことは否めない。

 とはいえ、猫好きの方にはとても楽しめる映画だと思います。猫が可愛すぎる。猫に寄り添う自然が美しすぎる。見るだけで癒されるのでおすすめです!



 というわけで今日も読んでいただきありがとうございます。


 素敵な時間を過ごされますよう。

 願いを込めて。



 



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