死を前にして罪人は何を思うのか? 退屈だけどメチャクチャ面白かった「教誨師」。


 こんばんはー

 今日のおうちmovie、ちょっと重たいものを見てしまいました。

 死刑になった人って、どんなことを考えてるのかな、と軽い気持ちで見たんですが、これが・・ 

 死刑囚6人と教誨師との対話を描いた映画なんですよね。

 ですが、死刑囚って、まるで私たちみたいなんです。こんな人いるいる、みたいな。彼らが真理を見つけても、そうそう、私たちの思考ってそこで終わってるよね、と過去の自分や世間の人と重なって見えたり。

 実際、死刑になるほどの罪を犯した人たちの話だというのに、全然そう見えないというのか。罪のシーンは全カットで対話だけの連続で成り立っているドラマのせいですかね。死を前提に生きている私たちとなんの変わりもなく見えてせいまう。むしろ、無罪のシャバの私たちを皮肉られているような気分になりました。

 お前らもこんなじゃないのか? と監督に言われているような。

 人間はこの映画の死刑囚の6パターンに分けられるような気がしてなりません。




 「教誨師」

 佐向大監督。大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、小川登、光石研出演。


 【あらすじ】

 新米教誨師の佐伯保は月に2回拘置所を訪れて、死刑囚と対話をしている。任侠の気質の元ヤクザに、人のいい元ホームレス、頭の切れるシリアルキラー、そして無言を貫く者、罪を告白する者、他人のせいにする者。時間を持て余す彼らにとって、佐伯は良き話し相手であり、理解者でもあった。罪人の彼らと寄り添うことによって、いつしか佐伯は自分の罪に気付き、生きていくことの目的を悟っていくのだった。そんな時、ある死刑囚に刑の執行が訪れ・・




 この映画、大杉漣さんの最後の主演映画だったんですよね。そのせいか、顔に死相が出ているような。失礼。なんとなく、具合の悪そうな、やけにむくんだ顔をしていらっしゃる。

 大杉さん演じる牧師の佐伯が人としても成長していく過程を描いているんですが、最初はね、同じ場面での対話だけの展開なので、退屈なんですよ。まるで舞台の演劇を見ているようです。(途中で何度もストップして、分けて見ました)

 ところがね、中盤あたりからじわじわと盛り上がってくる。何にも事件がないのに、盛り上がってくるんです、心理的にね、恐ろしくて。





 まずは、一番若い死刑囚、知識もあり、頭も良くて、くだらない世界を変えることを自分の生きる意義としていた青年と、一番年配の人のいいホームレス(なぜこの方が死刑になったのか最後まで謎でした)、こちらは学もなく、文字も読めない、字も書けない、けれど神の道を見つけた老人との対比が鋭く描かれます。

 知性ある若者の理論は頭では納得できますが、底知れぬ恐ろしさを秘めています。
 一方無学無知の老人、(グラビアアイドルの切り抜きを神のように崇めている・・)こちらは心に訴えてくる。




 そして、自分が犯した罪を全く理解できぬまま、被害者と関係者を赦すことを(対話を通して)悟った男。この男の異常性が薄気味悪く浮かび上がります。

 「私も彼女を赦そうと決めたんです。私気付いちゃったんです、誰も悪いわけじゃないんだ、って。だからやめたんです。人を恨むのは」

 これ死刑囚が言っているセリフなんですよね。おかしいですよねー でもね、案外シャバの私たちも自分の罪にはトンチンカンで、人を許して納得しているような気がするんです。

 この辺りから、あれ、これ本当に死刑囚の話? もしかして監督って強烈に私たちを皮肉ってる? と思い始めました。

 退屈な拘置所のシーンの連続もこの辺りから、嵐に見舞われたり、霊が出たりとドラマチックになってくる。牧師の過去のシーン(拘置所以外のシーンです!)が挿入されて、牧師の人生が明るみになります。そして、感情の吐露が始まります。




 面白かったですね。あーこんなに面白い映画だったのかと思い直しました。

 妄想で嘘をついては、全てを他人のせいにするおしゃべりな女も強烈でしたね。
 ぱっと見、こんなおばちゃん、どこにでもいるじゃん、って感じなんで、これも死刑囚とは思えないというのか・・・
 いや、死刑になっても、人は同じなんだなぁ、と思わざるをえないというのか。罪に鈍感な人々は、まるでシャバの私たちに瓜二つに見えるんですね。




 そして、圧巻のラスト。
 青年と老人の対比で物語は劇的に終わります。
 これは是非見て欲しいですね。ネタバレさせたくないと感じた久しぶりの映画でした。



 最後に老人が、あの文字を書けなかった老人が、神の言葉を書いて終わるんですけれど。この一言にも心を打たれました。

 死刑制度そのものを強烈に皮肉っています。皮肉るどころか批判しているという感じです。もしくは私たちに、もっと考えろと促しているのかもしれません。このラストも見所なので、是非見ていただきたいと思いました。


 というわけでまとめです!

 死刑囚と牧師が対話するだけの退屈な映画を見たら、思いがけず、全く退屈じゃない人生の深い真実が追求されていて驚いた! 知性ある若者と無学の老人との人生の対比を描いたラストはお見事。また、死刑囚6人は、そのまま私たちの社会によくいるタイプ6型に分けられるような気がして面白かった。あなたはどのタイプ?? なんて。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。

 ではでは、素敵な時間が訪れますよう。

 願いを込めて。



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