どこでもドアは開いていた。「凍りのくじら」に出会って。

 

 こんにちは!

 トランプ米大統領とイーロン・マスク氏が電撃和解しました。

 「今月初めに2人はお互いを批判し合い事実上決別を宣言した。マスク氏はトランプ大統領弾劾を求める投稿に「賛成」という意見を付けたし、トランプ大統領はマスク氏との関係について「終わった」と話した。」(中央日報

 これだけわかりやすく破局していながら、仲直りできるというのはすごい。

 利害関係が一致するというだけではない、大統領の懐の大きさを見たような思いがします。

 さすが、世界の戦争を停戦させようと努力するだけのことはあるんだなぁ・・。


 現実世界でも和解が大きな話題となりましたが、小説の中でも世界と和解する少女の物語を読みました。

 凍りのくじら。辻村深月さんの傑作。

 誰のことも本気で好きになれず、誰とも繋がれず、どこの場所でも生きていけない、と嘆く少女が世界を愛するまでの物語です。





 凍りのくじら(辻村深月)


 【あらすじ】

 藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――。(講談社文庫)

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 ・感想は・・


 辻村深月さんの小説は何作か読んでいますが、今回は特に心を掴まれた一冊でした。短編集で読んだ深月ワールドのピースのかけらが集結したような物語(大作)でした。面白かった!
 
 特に、元彼の若尾のキャラがめちゃくちゃ面白い。あらゆる人を見下している自己中心的な男(それでもカワイソメダルのおかげで救われていた)が、だんだんとメダルのメッキが剥がれ、腐敗し、破滅ていく過程が不気味で興味深く、引き込まれます。

 主人公もまたいい。誰とも仲良くできて、どこのグループにでもすぐ入れる(どこでもドアを持っている)けれど、誰のことも好きじゃなくて、誰とも繋がれない少女、どこにいても心ここに在らずの理帆子も嫌な女で良かったですね・・・

 これだけ人間の汚さや醜さを残酷に抉って書いておきながら、そのキャラクターに魅力を感じさせたり、自己投影して読み進めさせてしまう作者の実力に、圧巻の思いです。


 ・印象的なところは・・


 なんと言っても、理帆子が運命的に出会った一人の青年、別所ですね。正体を知った時は、あっと驚かされました。

 そうきたかと。この小説は「SF=少し・ファンタジー」だったのだなぁ、とその時初めて気がついた。

 全然、まったく、気が付きませんでした。読み終わってから、別所の登場シーンから最初から読み直して、改めて巧妙な書き方をしていることに感心してしまいました。

 辻村深月の底力を見たような思いがしました。

 そして、もしもその正体ならば、なんと悲しい、なんと愛情深い、魂を揺さぶられる邂逅であることか。
 だから別所はあんなにも理帆子の守護者であり、理解者でいられたわけなんですね。

 ネタバレになるので詳しく書けませんが、別所のエピソードでは、心が温まること必至です。若尾を筆頭にした現実のグロだけではない、真逆の美しいファンタジーも描かれています。ぜひ、お手に取って読んでみて、感動していただきたいと思います。


 ・最後にドラえもん。


 藤子・F・不二雄さんのことを神様のように扱われている本なわけですが、私はどちらかというと、藤子不二雄さん(Aを含むお二人)が好きかなぁ、なんて思って少し反発しました、笑

 それでもドラえもんは大好きです。あのお決まりのストーリーがいいですよね。ドラえもんの道具で楽をしようと不純な動機を抱いたのび太が最後には道具によって大反省をさせられて、真面目に人間の力で努力しようと決心するという・・

 ドラえもんという便利な道具を出す存在がいなかったら、のび太は決して反省しようとも自分で努力しようとも思わなかったと思います。いつまでも他力本願のままだった。そう思うと、結局は何の力になれなかったドラえもんとその道具たちも、随分とのび太のためになっているんだなぁ、と。のび太(とのび太の子孫)を救いにきた未来人という設定もよくわかるような気がします。

 そして、このドラえもんのことをたくさん書いた物語は、私を救ってくれたドラえもんの道具みたいな物語だと思ってしまいました。

 理帆子が探していた繋がりや救いが、もうそこにすでにあったこと。
 そんな本当に開いているドアを見つけることができたこと。
 人生の見方の角度を少し変えるだけで、本当の道具は手に入るものなのかもしれません。

 「凍りのくじら」という道具のおかげで、また一つ世界を知り、賢くなりました。一生懸命描いてくださった作者、辻村深月さん、どうもありがとうございます。


 ・そして、トランプ大統領に戻ると・・。


 最後にもう一度冒頭のトランプ大統領のニュースの話題に戻らせていただきます。

 マスク氏と和解するのもいいですが、今イランとイスラエルが大変なことになりつつあります。そちらの方もどうか、大統領のお力を貸していただけたらと思いますが、いかがでしょうか。

 本当に、世界はどこもかしこも亀裂が入って困ったものですね。

 ドラえもんの道具が求められている。トランプ氏に現代のドラえもんとなっていただきたいと心より願います。


 
 今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 あたたかい1日をお過ごしになられますよう。

 心を込めて。












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