サイコパスと聖母マリアの境界線。「ユリゴコロ」レビュー。
こんにちは!
「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が、街頭で襲われた事件、逮捕された無職の宮西詩音(しおん)容疑者は、「ナタは殺傷能力が高く、使い方も簡単だと思った。急所の頭をめがけて振り下ろした」と供述しているとのこと。
完全に殺す気満々です。恐ろしいですね! 殺意に取り憑かれたサイコパス、としか思えませんが、一体何が彼をそうさせたのでしょうか。
さて、今日はサイコパス繋がりで、恐ろしい物語を読みました。2011年に大ブレイクした「ユリゴコロ」という物語です。
殺人鬼の独白から展開が始まるこの物語。息を飲んで最後まで読ませていただきました。恐ろしかった!
ところがこの物語、恐ろしいだけでは終わらなくて・・・
ユリゴコロ(沼田まほかる)
【あらすじ】
ある一家で見つかった「ユリゴコロ」と題されたノート。それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。 この一家の過去にいったい何があったのか?絶望的な暗黒の世界から一転、深い愛へと辿り着くラストまで、ページを繰る手が止まらない衝撃の恋愛ミステリー! まほかるブームを生んだ超話題作、ついに文庫化!(Amazonより)
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面白かったの一言に尽きます。
あまりにもグロくて、所々眉を顰める場面もありましたが、謎の続きが気になって、グイグイ読まされてしまいました。
すごいものです。世の中には才能のある作家さんがたくさんいるものなんだな、と妙に感心し、読了後には楽しい時間を過ごさせていただいた事に深く感謝いたしました。
物語は主人公ぼくの家族に次々と不幸が襲いかかるところから始まります。そんな時にまるで廃墟のようになった実家で主人公は妙なノートを発見してしまう。そこには、殺人に取り憑かれた人間の長い独白が書かれていました。
この独白が怖い。殺人に取り憑かれたサイコパスの物語です。
ユリゴコロ(心の拠り所のようなもの)が「殺人=他者の死」であるといういう「彼女(のちに母親であることがわかる)」は誰なのか? 父か。母か。そして、主人公は幼い頃の記憶を呼び起こします。それは、長く入院していた病院から戻ってくると、母親が入れ違っていたという妙な記憶でした。
この母親が独白の主だったのではないか?
独白はダークで、しかし深みがあり、空恐ろしい予感に胸をざわめかせながらページを捲る手が止まりません。作者のストーリーテリングの巧みさに舌を巻きます。
こんな猟奇殺人を犯すサイコパスの気持ちがよくこううまく書けるものだと感心して、読み進めるうちに、次第に心を囚われて、「彼女」と自分がよく似た存在であるような気分さえしてきてしまいました。
不幸なサイコパスであった「彼女」は家族から断罪され追放されるのですが、そこまではアウトサイダー的なマイノリティにはよくある話です。しかし、「彼女」は逞しく、愛があったということでしょうか、「アナタ」と呼ばれる片割れを、そして息子の恋人を、自分の足と頭を使って執拗に探し求めるのです。もう会うことも許されなくなった、どこにいるか行方も知れない「赤の他人」をです。その執念には驚かされました。
彼女には愛があった。サイコパスだけではなかった。そして最後は、冒頭の独白からは予想もできなかった、壮大な愛の物語へと展開していきます。
「彼女」の種明かしがあり、母の愛に納得をし・・。
しかし、それでも物語は終わらない。母親の自己犠牲の愛の物語のように見せておいて、その悲しみと切なさに感慨しようとした途端、最後の最後に、主人公の最近の家族の不幸も「彼女」のせいであったように匂わせる。返す返すもよくできた物語で、空恐ろしいです。
サイコパスはやはり最後までサイコパスだったーー
その衝撃を胸に物語は終わっていきます。感動巨編風に終わっていきます。
背筋だけがゾワゾワするという・・
世の中にはいろんな人間がいるものですね。その切なさや闇を、これだけ夢中になって読ませてくれる作品として描き出す作者に本当に感謝したいと思います。面白かった!
さて、冒頭の立花議員を襲った犯人の話に戻りますが、彼には愛はあるのでしょうか。サイコパスの彼が何を思って立花氏を殺そうとしたのかは分かりません。しかし、彼が壮大な愛の物語に辿り着くには長くて深い溝があるような思いがします。
現実はフィクションのようにはいきませんが、どうか、実話も深みのある展開となっていきますようにと願うばかりです。
今日も最後まで読んでいただきどうもありがとうございます。
素敵な時間を過ごされますよう。
願いを込めて。