みちのく紅葉巡り編③ ~諦めたらそこで終わり、の蔦の森~奥入瀬渓流~十和田湖めぐり~
蔦沼に着いて、蔦温泉に入るか、蔦沼巡りの散策かを問われて、迷わず散策コースを選んだ。蔦沼を間近で見ることは念願であったし、蔦の森と呼ばれるブナの原生林の散策道も歩いてみたい。
私が気兼ねなく写真を撮れるようにと、肥後氏は45分後に駐車場集合の自由行動を宣言したが、何とはなしに3人揃って沼へと向かう散策道を歩き始めた。
景勝地蔦沼は南八甲田赤倉岳の山麓、かつて赤倉岳の爆発によって出来た蔦沼、鏡沼、月沼、ひょうたん沼、菅沼、長沼、赤沼の、蔦七沼から成る。奥入瀬渓流の玄関口の焼山温泉から、車で10分程だ。
蔦七沼のうち、蔦温泉旅館に近い6沼を結んでいるのが沼めぐりの小路で、一周約2.9km、所要時間1時間半程の散策コースである。ショートカットコースの野鳥の小路は沼めぐりの一周の円をちょうど半分に割った道で、こちらは所要時間30分程、私たちが歩いたのは、この沼めぐりの小路~野鳥の小路だった。
念願の蔦沼見学をショートカットの散策道で終わってしまって残念かというとそうでもなくて、30分の道を45分掛けてゆっくりと歩き、奥入瀬渓流沿いの散策道と比べて人も車も少ないこの静かな蔦の森と沼に、私は感動と興奮をし放しだったのである。
森の木々たちはしっとりと透明にそびえ、澄んだ豊かに流れる沼の水々に映える。入念に木々を避けて作られた散策道からは自然への敬意が伝わり、またその苔も情緒溢れて美しい。
肥後氏は紅葉を見て、しきりに残念がった。
「あと1週間早ければね・・」
蔦沼の紅葉は終わりかけていた。確かに、紅葉の写真を撮るには遅すぎるようだ。わざわざ遠くから紅葉を見に来たのに、ちょうど見頃の時ではなくて、可哀想だと気遣ってくれたのだろう。
八幡平に行く前の私だったら、同意していたかもしれない。もしくは八甲田のブナを見る前の私だったら。しかし、あのみちのくの、ただ無心に存在する自然の姿に圧倒されていた私にとって、蔦沼の紅葉は、神に感謝を捧げたいほど美しいものと映るのであった。なんと艶やかな姿だろうかと。冬を目前にして、その晩秋の彩りの最後の刹那をよくぞ拝ませてくれたものだと。
ちなみに、蔦沼の小路を歩いて行きそびれた温泉だが、大正時代の風情が残る蔦温泉旅館は、500円で日帰り入浴が出来る。風呂は2種類、ケヤキの木材で作られた本館の浴場がおすすめだそう。足元湧出の源泉をかけ流しで、無色無臭の透明で肌にさらりとなじむ蔦温泉、あの美しい場所を見尽くした桂月が最後に本籍地を移したところだ、私も次回は必ず入ろうと思う。
・蔦温泉旅館公式サイト
蔦沼までの散策道 沼めぐりの小路 |
蔦沼までの散策道 |
このブナの透明感と言ったらなかった |
蔦沼 失業時代毎日見ていた写真と同じ構図で |
路の木道は入念に木を避けて作られている |
青葛藤? 加くち山氏に教えてもらったが忘れてしまった、 沼の周りに黒い実がたくさん生っていた |
アイフォンで撮ったもの 色が少し変わってこちらも綺麗 |
うまい具合に穴を開けて作るものだ |
かたつむりが水の底に |
苔がモフモフ 肥後氏も感動 |
栗の木(でかい) |
蔦温泉前に戻ってきた |
桂月の胸像がある |
これが桂月が毎日飲んだという水 美味しかった |
蔦温泉旅館 地元のケヤキの木材で作られている |
今度は103号線を焼山方面へ 奥入瀬渓流を目指して |
蔦川 奥入瀬川(奥入瀬渓流)とこの先で合流する |
蔦川の紅葉 |
蔦沼を堪能した後は十和田湖へと向かう。十和田湖へ行くなら奥入瀬渓流沿いがいい、ということで、焼山から十和田湖の子ノ口までを繋ぐ奥入瀬渓流沿いの国道102号を走った。
奥入瀬川は十和田湖から流れる唯一の河川である。上流の奥入瀬渓流には14.2kmの散策路が続き、14本の滝と渓流美が楽しめる。青森・・いや日本屈指の景勝地である。この日も紅葉シーズンの休日ということもあって、東北のみならず関東や近畿ナンバーの車が列を成していた。大型バスまでがそう広くもない渓流沿いの国道に入ってくる。写真を撮りたいが停める場所がなくて苦労した程だった。
それでも、渓流美の要所要所でキューブを飛び降りては写真を撮り、少し先の止められるところで止めて待っていてくれた二人に追いつきまた乗って、またしばらくすると飛び降りて、を繰り返して、何とか撮らせていただいた。
あの交通量の多さに、警備員とカメラマンの多さに、お祭り騒ぎのような熱狂ムード、奥入瀬渓流の紅葉シーズンおそるべし。蔦沼の気持ちが心の底へ底へと深く染み入っていく感じとは正反対に、奥入瀬渓流では気持ちが高ぶり、溢れて、外へ解放されていくような感じとでも言うのか。国道103号の先には傾きかけた陽が見えて、木々の隙間から道を眩く照らしている。その光に向かって車は加速して(木々は消えて)、まるで光に溶け込むように、ホワイトアウトしながら、私たちは渓流から十和田湖へ突入する。
・奥入瀬渓流の歩き方 (星野リゾート奥入瀬渓流ホテル公式サイトより)
蔦七沼から国道103号を通って蔦川沿いを走る |
蔦川にかかる出合い橋 (奥入瀬渓流とこの先すぐに合流するので出合い橋である) |
出合い橋から蔦川を見る |
奥入瀬渓流 時々加くち山氏に車を停車してもらって渓流を撮る |
人気の阿修羅の流れ |
阿修羅の流れ 写真からは分からないが三脚を持った大勢の 観光客(カメラマン)が撮っていた |
こちらは雲井の滝 |
雲井の滝 二段の綺麗な滝だった |
渓流沿いの102号線 紅葉シーズンということもあり、途中大渋滞だった |
白糸の滝 もう停車できず車の中から |
白糸の滝 カメラ女子も多い |
渓流の終点 ついに十和田湖に突入 |
十和田湖に着く少し前、奥入瀬渓流の一番の見所(川魚が十和田湖へ入るのを阻止して来たという)銚子大滝を通過した直後に、一眼レフカメラの電池がぷつりと切れた。
ぎょぇっとか、ひぇっ、とか妙な声を出したと思う。ここからが本番、というところで、突然写真が撮れなくなったのだ。
いや、実を言えば、その前にも蔦川で一眼レフカメラのメモリがいっぱいになり、写真が撮れなくなったと騒いでいた。なので、今度は何? と肥後氏が心配そうに覗き込む。蔦川の時はメモリを買いに行くことを勧めてくれた氏だったが、今度はどうしようもない。予備の電池は持っていない。充電器は今使えない。ボツ写真を削除しながら撮っていたみちのくの写真旅行の道程もついに尽きた。
なぜ、念願の十和田湖の直前で・・・ 一瞬途方に暮れた。が、すぐに気を取り直した。まだアイフォンがあるではないか。諦めたら試合終了よ!と半分冗談、半分真面目にのたまうと、肥後氏はのんびりと、「そういえば(スラムダンク)明日から放送だね~」。いや、それは知らなかった。
思えば、肥後氏と加くち山氏はただ私の紅葉めぐりのドライブに付き合ってくれただけなのに、いつの間にか、私の写真撮影に付き合わされ、とことん協力してくれた。終いには、私より熱かったように思う。
十和田湖を撮り終わって脱力した私(下の写真では省略しているがアイフォンで散々撮ったのである)、力尽きた(満足した)・・と言って車のシートに深く沈み込むと、夕陽を追いかけながら言うのである。
「いや、まだまだこれからですよ」
「早く早く。展望台に登ってあげて」
夕陽が十和田湖へ沈む瞬間があったか。確かに、それこそが最大のポイントだった。何を寝ぼけていたのだろう。私は飛び跳ねるように起き、身を乗り出して、またアイフォンを構えた。
キューブは夕陽を追いかけて、子ノ口から十和田湖の南、御鼻部山へと登っていく。走る走る加くち山氏。応援する肥後氏。撮りまくる私。(慌ててピンボケばかり・・)
すかさず充電してください、と表示が出る。一眼の代わりに奥入瀬から十和田湖まで撮りまくったせいだろうか、アイフォンは(ずっとシガーソケット充電器に付けっぱなしなのに)電池が切れそうになっていた。私はまた、ぎょぇっとかひぇっとか妙な声を上げる。肥後氏と加くち山氏の協力と期待?を頂いているというのに、この期に及んで、ついに、試合終了か。
頼むよアイフォン。頑張れアイフォン。頼み込みながら十和田湖の南側の102号線を走って行く。道はガラガラである。十和田湖の北岸側にあたる御鼻部山展望台と滝ノ沢展望台は穴場だそうで、十和田湖の南側(十和田湖から突き出した形の中山半島や御倉山方面の展望台)の展望台と比べると観光客が少ないのだそうだ。
「こっちから一周する方がいいのに」、わざわざ混んでいる方に行って、バカだね、とか、わかってないね、とかいったニュアンスで、氏が呟く。確かに、標高1011mの御鼻部山展望台からの眺めは、中山半島と御倉山と、十和田湖の中湖、西湖、東湖が一望出来て素晴らしいものであった。
・十和田湖周辺ガイド(十和田湖の展望台が載っています)
・御鼻部山展望台
と言っても、私はまたまた何の因果か都合のいい具合に、展望台に着く寸前にアイフォンの電池を切らしてしまうのである。ぷつり、と電源が落ちたのを見たときはもう、ぎょぇもひぇっも、妙な声を出すことさえできなかった。生き返るのを待ってシガーソケット充電器に差したまま置いて景色だけを見に行く。私の代わりに、肥後氏が自分の携帯で撮ってくれている。写真、私にもちょうだいね、などと卑屈に呟いて。日暮れ直後の十和田湖は夜の青味を帯びて美しかった。ああ、今撮りたいものだなぁ・・ ふと敗北感がよぎったが、いや、もうここに着く前に、散々、夕陽が落ちる瞬間を撮ったのである。
念願の十和田湖を俯瞰して夕陽を見た。太陽柱が長く伸びた、綺麗な夕陽だった。夕陽だけではなく地震雲まで見た。(加くち山氏は、恐らく半分冗談で、あれは岩手の方向だな、などとのたまっていたが)もうお腹いっぱいである。もういいのだ。日は暮れたのだ。戦いすんで日は暮れて、である。今更何を欲張ったことを・・ と自分を慰めているちょうどその時、展望台の西側に回っていた肥後氏が叫んだ。
「見て見て~ まだ日が暮れてないよ。真っ赤な夕陽が出てる!」
慌てて見に行くと、驚いた。沈んだ筈の夕陽が今まさに山肌に沈もうとしている瞬間で、それは先程とはまるで違う見事に大きな、燃えるように真紅の太陽で、そのゾンビのような太陽が、御鼻部山の木々の間からくっきりと見えているのであった。もう声も出ない、と思っていた私もさすがに叫んだ。「ひぇっ」「ぎょぇっ」!!!
私は加くち山氏の待つキューブに戻って、アイフォンを引っ掴んだ。残念ながら生き返らない。充電中のマークか、真黒の画面だったか、慌てていたので覚えていないが、とにかく電源は入らなかった。今度は死んでいる一眼レフを引っ掴んだ。展望台に戻りながら電源を入れ直す。やはり電源は入らない。今度は電池を一旦外して、また装填する。もう一度電源を入れるとかろうじて点いた。
気分はスラムダンク復活である。よっしゃとばかりに一眼レフを構えるが、ばかでかい真赤な太陽柱の夕陽は一瞬の差で沈んでしまった。空に残る太陽柱も木々が邪魔をしてまともに撮れそうもない。くそ。それでも見事な十和田湖の景色を撮り、キューブに戻ると、今度は肥後氏と加くち山氏が真赤な太陽柱を目指して、走り始めた。
「どんどん薄くなっている。木がなくて、見えるとこ!!」
「う~ん、もうちょっと先がいいかもしれないけど・・ ここはどうだ」
肥後氏が車を飛び降りる。私も慌てて後に続く。木々の隙間から何とか西側の空が見渡せた。真紅の太陽柱と妖しく重なった雲がかろうじて撮れそうである。
また一眼レフの電池を入れて出して、電源を入れて、狙いすまして一枚、シャッターを切った。太陽柱の夕陽の残照を撮る。
それが最後だ。一眼レフの電源は、二度と復活しなかった。
十和田湖キタ――(゚∀゚)――!! |
十和田湖キタ━(゚∀゚)━! |
十和田湖キタ━(゚∀゚)━! (興奮気味) |
夕陽を追いかけて走る走る |
沈む直前に展望スペースへ到着 |
地震雲に、ん?夕陽の光が上に伸びてきた |
沈んだと思ったらまだまだ太陽柱が上に伸びていく |
十和田湖北側からの景色 (電池を振り絞って一眼レフで) 御鼻部山展望台から 十和田湖に突き出ている 中山半島と御倉半島がよく見える |
十和田湖西側の景色(電池を振り絞って一眼レフで) ついに真赤に染まった太陽柱 陽が沈んだあともしばらく見えていた |
こちらは生き返ったアイフォンで |
滝ノ沢展望台 十和田湖道の展望台の石標 |
肥後氏と加くち山氏と別れた後、一人食事へ向かう。行きたいと目星をつけていた弘前城のすぐ傍の海老助さんである。
今度こそ戦いすんで日は暮れて。妙な連帯感を感じて、氏らとの別れ際は切ない思いがしたものである。写真にはうまく撮れなかったが、あのようなぎらぎら燃えるような太陽の、火柱が天高く伸びるような空を見たのは初めてであった。吉兆か、それとも凶兆か、これは天の啓示なのか、良くないことの前触れなのか。わからない私だったが、それでも今は気持ちのいい脱力感、やり遂げたあとの束の間の至福を味わう。
二人には大変お世話になった。今度会うときが来たら、充分お礼を言いたいものである。一人だったら見れなかった。一人だったら諦めていた。おまけに肥後氏にガソリン代まで出してもらった私である。その節は申し訳なかった。その節は大変お世話になった。ありがとうございます、と。
ちなみに、加くち山氏の会社は株式会社北日本養殖水槽販売というのである。前回の記事を見て、人工海の養殖事業に興味をもたれた方がいたらぜひ連絡してあげて欲しい。イマジンの歌詞のようなものだ。一人ならできなくても、彼らとあなたがいればできるだろうから。
・株式会社北日本養殖水槽販売
そんなことを考えながら、海老助さんで食事をする。カウンター席だ。目の前のテレビでは東北楽天のマーくんがマウンドに立っていた。彼の戦いは未だ続いている。頑張れ。頑張れ。諦めるな。
マーくんが負けた、と知ったのは、翌日の朝になってからだった。
海老助さん外観 |
ご飯がおひつで出てきた うまい |
今日のホテル 岩木桜の湯ドーミーイン弘前 |
ビジネスホテルなのに最上階に本格的な露天風呂がある |
桜の木もあります |
・海老助(食べログ)
・ドーミーイン弘前
※ごめんなさい、白神山地の紅葉の記事は来週お届けします。