誰かの代わりじゃない私へ。〜安壇美緒「ラプカは静かに弓を持つ」感想〜
こんにちは! ららです。
トランプ大統領が新たな相互関税の大統領令に署名したそうです。(こちらより)
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アメリカのトランプ大統領が、先月31日、新たな相互関税を課すための大統領令に署名しました。日本への関税は10%から15%に引き上げられます。7日後に発動するとしています。〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用終了〜〜〜〜〜
25%とふっかけておいて、落とし所は5%上の15%。
それでも「助かった」と思ってしまうのは、損を得に見せるような、ある種の政治的マジックにかかった気分になります。
こういうやり方、果たして信頼できるのでしょうか。
今回はちょうど、信頼について深く考えさせられる小説を読んだので、ここで感想を綴ります。
ラブカは静かに弓を持つ(安壇美緒)
【あらすじ】
武器はチェロ。潜入先は音楽教室。
少年時代にトラウマとなる事件を経験し、深海の悪夢に悩まされる橘という青年が、音楽教室への潜入捜査を命じられ、チェロ講師・浅葉のもとでチェロを学ぶ中で、過去の傷を癒し、新たな希望を見つけていく物語。(Google検索のAIによる概要)
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・スパイの使命が浮き彫りにする2つの葛藤
面白くて、一気に読み進めてしまいました。
主人公・橘は、幼い頃のトラウマから、誰とも信頼関係を築けない孤独な青年。
著作権会社に勤める彼は、訴訟の証拠を集めるために音楽教室へ潜入するよう命じられます。
ところが、スパイという偽りの立場の中で、彼は教師や仲間たちと初めて本物の絆を感じ始めます。
しかもその過程は、トラウマの原因であるチェロという楽器を通して起こっていくのです。
音楽の力によって、壊れた心が再生していきます。
2年にわたる潜入調査が終わろうとする頃、橘は大きな葛藤に襲われます。
偽りの中で初めて手に入れた絆。そして思いがけず、心を癒してくれた愛しいチェロ。
そのどちらも手放さなければならない時が近づいていたのです。
このふたつの問題をどう乗り越えていくのか。
私はドキドキしながら、ページをめくり続けました。
・「信頼」とは、無数の小さな積み重ね。
私自身、人と深く関わるのが怖くなることがあります。
LINEを一方的にブロックされ、関係が突然を切れてしまう・・そんな体験をしてきました。
だからこそ、人間関係を恐れ、誰も信じられない橘の気持ちがよくわかる気がしました。
橘は、人との関係は、ある日突然、深海に引き摺り込まれるように崩れ去る。そんな得体の知れない恐ろしさを抱えています。
そしてその恐れは、ある日現実になります。
スパイであることが浅葉にバレてしまい、浅葉は深く傷付き、怒りを露わにします。
信頼関係は木っ端微塵に砕け散ったように見えました。
「やっぱり人間関係なんて、脆いものなんだ」そう思いました。
けれど、物語は違う結末を見せてくれました。
裁判で証言台に立った音楽教室の女教師が語った言葉が忘れられません。
「音楽教室の生徒と教師の間には、信頼があり、絆があり、固定された関係がある。それらは決して、代替のきくものではない」。
橘と浅葉も、仲間たちも同じだったのです。
偽りの関係の中でも、そこに築かれた信頼は確かに存在していて、誰かの代わりがきくような軽いものではなかった。
そのことに気付いた橘は、静かに涙を流します。
そして読んでいた私もまた、自分が人間関係をどれほど侮っていたかに気付かされました。
・それでも、私の代わりはどこにもいない
「これは特別な音楽教室の話なんだ」と思う人もいるかもしれません。
けれど物語は、私たちにも静かに語りかけてきます。
きっと私がこれまでに簡単に失ってきた人間関係は、本物の信頼が築かれていなかったのかもしれない。
もし本物だったなら、私にしかできなかったことがあったはずだ。
そう気付かされ、どこかで諦めもつきました。
だからこそ橘は、著作権会社を辞めて、音楽教室に戻るのです。
浅葉のもとへ、もう一度・・・。
なんとも清々しく、希望に満ちた最後でした。
読み終えたあと、私もまた、人との間にある壁の向こう側に、手を伸ばせるような気持ちになれたのです。
・そして最後に冒頭のニュースに戻ると・・
トランプ大統領の関税引き上げのニュースに、私はどこか騙し討ちのような印象を受けました。
国と国の信頼関係があれば、こうした問題ももっと冷静に、誠実に向き合えるのではないか。
でも、現実の世界では、大統領令という一方的な手段が使われ、人と人、国と国の間の壁は、より高く、厚くなっていくばかりです。
物語のように、もう少しだけお互いに歩み寄ることができたら・・・
そんな希望を胸に、今日も生きていきたいな、と思いました。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
どうか今日があたたな1日になりますように。
願いを込めて。