拒否できない日本、日米FTAも時間の問題か。

  
 民主党の鳩山由紀夫代表、社民党の福島みずほ党首、国民新党の亀井静香代表は9日、3党党首会談を開き、連立政権樹立に向けた合意文書に署名した。合意したのは政権運営の枠組みや政策で、農政では戸別所得補償制度創設を明記した。日米自由貿易協定(FTA)は盛り込まなかった。民主党の鳩山代表は閣僚人事を本格化させ、週内にも全閣僚を内定する方針だ。3党連立による新政権発足で、農政も転換へと動きだす。
合意文書の前文では、家計に対する支援を最重点に位置付けるとともに、中小企業や農業など地域を支える経済基盤を強化し、内需主導の安定した経済成長の実現を掲げた。その上で、3党の党首クラスによる基本政策閣僚委員会の設置や憲法三原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)の順守、国と地方の協議の法制化、速やかな緊急雇用対策の検討、地域の活性化、地球温暖化対策の推進、新型インフルエンザ対策、外交・安全保障政策、今回の政権担当期間中の消費税率据え置き、郵政改革見直しなどを確認した。
 ・・・(詳しくは日本農業新聞紙面をご覧ください)


 朝、新聞を見てほっとした。
 民・社・国の連立政権の合意書ではとりあえず「日米(及びアジア太平洋諸国との)FTA」に関する記述はなかったようだ。
 そもそも私が民主党を見限ったのは、この自由貿易協定締結をマニフェストに掲げたからだ。日本をより良くしてくれるならどこだって良かった。自らを否定した自民党だって野党と変わりはしないのだから。そう思っていた。しかしこの公約だけはどうにも許し難い。海外の農作物が無関税で入ってきたらどうなるのだろう。日本農業は壊滅、それを免れても食料自給率は今以上に著しく低下、また、戦力も持たず食べるものさえも他国の頼みの日本はあっけなく負け、崩壊するだろう。その頃にはすべての経済が自由化されているのだ。戦後唯一勝ることが出来た日本経済は弱体化を続け、非常事態に対抗するすべはもはや残されていない。中国の農薬まみれの野菜を食べたくはないものだ。日本の野菜は一部のセレブしか食べられなくなるに違いない。そうか、貧乏人の私は危ないものを食べて早く死ねと言うのか。(以下延々と続く私の夢想)
 私はとんだ思い違いをしていたのである。

 中国野菜などどうでもいいのだった。日本の農産物の自由貿易を望んだのはアメリカであって、日本ではない。何のことはない、2009年度版の年次改革要望書(日本規制改革及び競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府要望書)※ にちゃんと書いてあるではないか。

 民主党ははじめから年次改革要望書を念頭に入れて、公約を謳ったのだ。対外的なバラマキのえさとしてだけ、FTA締結(促進)を掲げたわけではない。はじめから農産業はターゲットにされていたのだろう。アメリカが希望している特定の市場の創出(もしくは希望する措置)は、私たちが政権を獲っても引き続いてもきちんとやりますよ、と言っているようなもので、まずは農産業というわけだった。
 そう、問題はアメリカの野菜だ。CODEXコーデックス(FAO国連食料農業機構とWHO世界保健機構によって設置された食品規格のこと)基準に準拠された「やつら」、最大残留農薬基準が厳しかったり、反対に収穫後に農薬を使用したり遺伝子組換えなどで危なかったりすると聞く農産物であった。
 年次改革要望書は毎年10月にアメリカ政府が日本政府に向けて送りつけてくる要望書で、まぁそう言うと聞こえはいいが、要するにボスからの指令書である。
 日本政府は、はっ!とばかりにありがたくそれを頂戴すると、まるでぜんまい仕掛けの人形のごとく、忠実に実行するのだった。
 私が初めてこの制度を知ったのは、電子図書館である青空文庫が著作権の延長反対の運動をしていたときで、その(著作権の)利権のために期間延長の圧力をかけてきたのがアメリカ政府だと知った時だ。そのあと、日本企業を弱体化させるために、社員の愛社精神と家族のような団結力を内部からぶっ壊そうとたくらんだ人材派遣の自由化と派遣法の改正、その真犯人としてまた耳にした。
 多くの国民が知らされていない年次改革要望書によるアメリカの日本支配。この事実を暴き、赤裸々に描いている関岡英之さんの「拒否できない日本」を読んでいて、ふと、今年の要望書はどうなっているのだろう、と疑問に思った。米国大使館のホームページに行ってみると、農業の記載がやはりあるではないか。
 表面的には政府慣行を推進しているだけである。内容も安全な野菜を作るために基準を変えてみてはどうですか、と言っているだけのようだ。
 私は素人だから各国の基準とかわからないので、ますますわかりづらい。社内の専門者に聞いたり、ウェブを調べてみたりする。

(※追記 年次改革要望書は、その後2009年、鳩山内閣によって廃止された。)


 以下、記載されている内容。
「その他の政府慣行」(P11)
 (中略)農業分野においては、生産者のために日本の輸入制度の透明性および予見可能性を高める一方で、日本の消費者に安全な農産物・食品を届けるために日本が科学に準拠し、WTO/SPS協定に基づく義務に従うことを確かなものとするなど、円滑な農産物貿易を促進するための措置が推奨される。
・提言の要点(P11)
 有機農産物輸入、安全な食品添加物、収穫前、収穫後農薬検査制度に関して、CODEX基準に準拠する。最大残留農薬基準にして、できる限り貿易を制限することがない効果的な輸入措置をとる。
1、農業に関連した政府慣行(P26)
(中略)IーA. すべての緩和措置が貿易を極力制限しないものであること、輸入産品に対して内国民待遇を与えるものであること、国際慣行に従っていることを確かなものとする最大残留農薬基準制度を実地する。
IーB. 有機農産物貿易を促進するという目標の下、有機農産物に使用される生産資材の安全性を評価するに当たり、また、現行の残留農薬政策を修正するに当たり、科学知見に基づいた基準を適用する。
IーC. FAO/WHOの合同食品添加物専門家会議によって安全と認められており、かつ世界各国で使用されている46種類の食品添加物の審査を完了する。(後略)
(中略)
IーE. 収穫前、収穫後の使用形態に対して単一のMRL基準を実施することにより、ポスト・ハーベスト農薬を食品添加物と見なさないことで、特定の農薬に対する収穫前、収穫後のMRL検査の日本の実施計画に国際的慣行を適用する。

 私が重要だと思うところを抜粋してみました。

 このあと、感想を書きたかったのだが、ちょっとまだ勉強不足ですね。
 このアメリカの押し付けてきた新たなルールによって、自由貿易後の市場は安くて安全性の乏しいアメリカ産農産物がどっと輸入されるであろうことはわかった。
 日本の消費者のために安全な農産物を、と言っているが、日本の消費者のためを思うなら放っておいてほしいものだ。
 また、生産者のために日本の輸入制度の透明性を、というくだりは、「アメリカの生産者のため」であろう。

 アメリカと言うのは本当に欲張りな国だ。

 拒否できない日本の一文を紹介して、今日はひとまず終わりにしておこうと思う。
 そうそう、民主党の追求だが、この本で驚いたことに、アメリカは日本が立法、行政、司法のバランスが行政に偏っているのをよく熟知しているらしい。だからこそ、行政の力を奪うことに必死なのだ。彼らは日本のシステムを研究し尽くして、日本をアメリカ型の社会に改造することに異常なほど執着している。もはやそれはアメリカの国益を得ることよりも重要な使命であるかのようだ。
 もしかしたら、まぁ想像でしかないが、彼らにとっては面白いゲームなのかもしれないなぁ。さぞかし愉快なことだろう、などと思う。
 しかし日本の国民からしたら、たまったものではない。自公連立政権から解放されたら、楽になるどころかますます酷くなっていく。このアメリカ支配からは到底逃れられそうもない。
 なにせ「政と官の関係を抜本的に見直」したり「霞が関を解体・再編」したり「特別会計、独立行政法人、公益法人をゼロベースで見直」したりと、官を徹底的にたたくことをマニフェストで謳っている民主党を選んでしまったのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだ。
「そして日本の法文化には、前近代的で非合理な否定すべき面も確かにあるが、その一方では、共生や協調といった、これからの地球に生きていくうえで不可欠な叡智を先取りしている面も見逃すことができず、むしろ近代西洋型の司法制度の限界を打開する手掛かりや示唆を含んでいる(中略)。だがアメリカ人は決してそうした目で日本を見ようとしない。実に厄介で迷惑な隣人を持ったものだ。」

「いま日本で推し進められている事態は、占領軍でさえ躊躇したことだということを、是非とも理解してもらいたいのだ」
(『拒否できない日本』より抜粋)
 
 

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