白神の森、恋の旅。
今日は白神山地のお話です。
青森旅行の2日目、レンタカーを借りて、白神山地へと出かけてきました。
世界遺産でもある、美しい白神の森に行くのは、ここ数年来の私の念願でした。
きっかけは森や樹木が好きであったこと、聖地の白神を夢見るのは当然のことではありましたが、特に白神の森、いえ、新緑の季節の白神の森への恋慕を募らせてくれたのは、あるブロガーさんのたった一つの記事でした。
『世界遺産の森へ』http://bit.ly/mSPzLl
(Das Tagebuch von Judith http://liebejudith.blogspot.com/ 5月10日)
※最近リンクがうまく張れません。URLを記載します。ご容赦ください。
この記事を読んで、美しい白神山地の新緑を目の当たりにし、私がどれほど胸をときめかせたことでしょう。
いつか絶対自分の目で見たい。
そう決意するには充分過ぎました。
しかし、その後、白神山地のツアーを探すようになって、私は自身が胸をときめかせた白神の森の青池を巡るコースが、とても有名な観光地で、いわゆる俗なものだと知りました。
どのツアーでも必ずメインに十二湖(青池)巡りのウォーキングツアーがあるのです。
それで、私の熱は少し冷めて、今回青森行きを決めた時も、十二湖のある深浦町ではなくて、暗門の滝がある味が鰺ヶ沢町に行くことに決めました。
恋慕ているうちに、私はより白神を身近に見知っているような気持にだけなっていて、誰もが行くところではなくて、あんまり旅行者が行かないところ、強いては特別なところへ自分が行くべきだと思い込んでいました。
そして、十二湖は遠かったのです。レンタカーで巡る予定だった私にとって、弘前から十二湖のある深浦町は冒険過ぎました。
私は通好みであるような暗門の滝を見に行って、その後、津軽峠になるという白神のマザーツリーを見て、で、もしも時間の余裕があれば、いつか憧れた青池を見てあげてもいいかなぁ、なんていう、尊大な気持ちで、出かけたのでした。
ところが、そんな私を待ち受けていたのは、交通規制(※注)です。
弘前から、35Km程車を走らせて、暗門遊歩道のスタート地点であるアクアグリーンビレッジANMONに辿りつくと、施設の中の案内一覧には、暗門の滝のトレッキングコースや、マザーツリーのトレッキングコースに、ことごとく、「×印」が付いているのでした。
スタッフの方に、声をかけたところ、今年は雪解けが遅く、トレッキングコースは観光者が入れる状態ではないとのことでした。
せめて津軽峠のマザーツリーを、と思い、車なら傍に行けますかと訊ねても、
「車も何も、そもそも白神ラインが通行止めですから」
と、一蹴される始末。
また、今来た道を16、7Km走って、起点まで引き戻さなくてはなりません。
唯一の希望は十二湖でした。
スタッフの方は、私が近郊から来たと思ったのでしょう。(白神ラインは)6月には入れますよ、と事もなげに答えて、「十二湖の方は大丈夫なんじゃないかなぁ」とこれも気のなさそうな言い様で、教えてくれました。
私の深刻そうな顔に気が付いて、やっと、いくつかの地図やパンフレットを出してきて、そして、道を丁寧に教えてくれるのでした。
私はすぐに十二湖に走りました。もうそこしか、白神山地に触れる場所はありません。
俗だの、私だけの白神を撮りたいなどと、ほざいていたので、神様がちょっとした悪戯をしたのではないかしら、などとも思えてきて、いいえ、前日にちゃんとネットで調べておけばよかったのです。
私は絶対行けるものだと疑いもせず、なぜ期待していなかった弘前の桜が満開だったのか、その意味をも考えず、白神の山に、敬意を払うことを怠っていたのです。
今や、遠くて、俗な、十二湖のコースしか、望みがありません。私は昼食も取らずに、レンタカーを走らせました。
日頃運転をしていないので、時速50Km程で走り、後ろの車たちを渋滞させて、苛立たしそうに抜かせていた私の走りは一変して、道の先に現れた車を煽るほどに、スピードを上げて、101号線を走り続けました。
十二湖に付いたのは、午後の2時近かったと思います。
ガイドの方が、青湖は2時を廻ると陽が射さなくなるから急ぎましょう、と言ったのを覚えています。
それでも私は、ほっとしてしまいました。
どんなに遅くとも夕方4時には弘前に引き戻さないと、給油やレンタカーの返却時間にも間に合わないし、最悪、帰りのバスの時間に間に合わなくなると焦っていたのでした。
辿りついた。これで、白神が見れる。
そう思ったら安心してしまって、白神の森を見れることの喜びはいっそう大きくなりました。
私を恋慕させたブロガーさんの記事の通りに、私はガイドさんを頼みました。
駐車場の前にあるキョロロという森の物産館には、「ガイドいます」と案内がたくさんありました。マタギ風のおじさんたちもうろうろと歩いています。
やっぱりずいぶん、俗というか、商業的な匂いを感じたのも一瞬。
なにせ私は、100Km以上も車を走らせて、白神の森に触れられるか触れられないかの瀬戸際で、やっとここに辿りつけた「者」なのですから。
「1時間くらいしか時間がないのですが、ガイドさんって頼めるものですか?」
駐車場のスタッフに訊いてみると、その「おじさん」は、ええ、ええと頷いて、あの人なんだよ、あの人、と身を乗り出した後、大きな声で、
「F子さん!!」
F子さんは、後で知ったのですが、他の町から来た方で、今ではすっかりここのスタッフの全員とお友達で、誰とでも気さくに喋り、始終楽しそうにしていて、そして、それは白神の森のせいだと嬉しそうに語る、明るくて、元気な「おばさん」でした。
彼女は、あまりに白神の森に接していると気持ちが良いので、週に5回、下手すると月に数日しか毎日休みも取らずに毎日働いているそうです。
彼女は、時間のない私を、丁寧に導いてくれました。出来る限り、白神の魅力を伝えようと、いろいろなことを教えてくださいました。
面白いことに、後になって、テストもしてくれます。
「あれは何だっけ」
答えられないと、笑って教えてくれて、「ゆっくりでいいからね」と笑います。
おかげで私は森の樹木や草花の名前を、その生態を、そして白神の山のことを、ずいぶん覚えて帰ってきたものでした。
「帰ったら、勉強しておきます」
そう言うと、F子さんは、嬉しそうに笑って、帰りに、ガイドさん用の名刺を一枚くださいました。
私にもないのかと訊かれたので、会社の名刺を渡して、別れました。たまたま、持っていたのが、財布に入れっぱなしの汚い名刺だったのですが、「いいよ、いいよ」とF子さんはやはり嬉しそうに笑うのです。
写真が出来たら、彼女に送ってあげたいなぁ、なんて、私はぼんやりと考えていました。
残念だったのは、雪解けが遅れているだけあって、今年は新緑の時季も遅れているのです。
憧れたブロガーさんの記事のように、青々とした新緑を見ることは叶いませんでした。
そして、彼とは違い、たった1時間の散策でしかありませんでした。
「3時間もあったらね、この森はずいぶん楽しめるんだよ」
F子さんの言葉が思い出されます。
その二つが惜しまれますが、それでも、生まれたてのブナの葉の可愛らしかったこと。産毛が映えたような黄緑の若葉をたくさん見れたことは何よりも変えがたいものでした。
そして、F子さんが、マザーツリーを見逃した私のために、同じ樹齢のブナをわざわざ見せてくれたこと。(彼女はガイドの後に、ご自分の車に乗って、私を案内してくれました)
それから、彼のブロガーさんが来た道を同じように歩けたところも随分あって、最後の最後、お茶屋さんに辿り着いたときは、ああ、ここか!と思わず感動したほどでした。
彼よりも素敵な写真を撮れないことは、もうその時点ではわかり切っていたので、私は、数年間何度も見た、その小さな滝の写真を撮ることはしませんでした。
私の白神の恋慕の旅は、これで終わりました。
憧れから始まって。
俗なものへと化して。
それが、現実となることによって、憧れていた時よりも、ますます大きな輝きを以て、私の元へと戻ってきた。
そんな白神の森の旅でした。
またいつか、必ず戻ってこようと思います。
F子さんは、あの笑顔で、迎えてくれるでしょうか。
私と白神の森の、新しい恋が、今始まろうとしています。
そのほかの写真をご覧になりたい方はこちらをお願いします。
いつも写真を見ていただいて、ありがとうございます。
▼100 青森旅行2011年5月アルバム
http://bit.ly/iEvdvo
※注・久しぶりに『世界遺産の森へ』を読み返したら、「冬季閉鎖」とのこと、ちゃんと書いてありました。美しい写真しか目に入っていなかったようです。加えて、学習不足で申し訳ない。