Googleアプリ・イングレスの楽しみ方 ~イングレスという巡礼~




 5年程ぶりに一人暮らしを始めた。正確に言うと猫と二人暮らしだ。理由は父親の鶴の一声。「暑苦しい」。夏の真っ盛りだった。半年ぶりに娘が帰ってきた家は、やけに風通しの悪い、住みづらい家と映ったのだろう。

 新居を探す際に気をつけたのは、猫が遊びやすい家であるということ。それさえ満たしていれば、何でも良かった。うちの猫は高い場所が好きである。なので、新居は実家から1kmほど離れたロフト付きのアパートとなった。初めこそ、生まれてからこの方見たこともない場所に連れてこられて泣いていた猫も、今では、ロフトへの上り方を覚え、降り方を覚え、さらには棚什器から飛び移る方法を身に付けた。





 私はといえば、新しいゲームを身に付けた。正確に言うと、身に付けつつある。ingressというGoogleアプリの陣取りゲームである。これがなんとも面白い。石巻を離れた傷心を忘れさせてくれるほどの掛詞にあふれているのである。「掛詞」と言ったか。それは百人一首などで読まれる和歌の用語で、ある意味と、別の意味を一つの言葉で言い表すこと。一つの言葉に、二つめの意味が隠されていることではなかったか。そう、掛詞だ。確かに、イングレスにはある。私はこの日本古来から続く、一つのものに二重の意味を持たせる、という手法が大好きだ。これは日本人ならわかると思うが、言葉だけではなくて、行為にも、あるのだ。共に散歩をして、月が綺麗ですね、と囁けば、アイシテイル、という訴えだとか。エトセトラエトセトラ。








 イングレスは、現実世界の地球と全く同じ仮想世界が存在し、そのもうひとつの世界の陣地(フィールド)を取り合うというゲームだ。ゲームの大前提は、「世界は危機にさらされている」。救うのは貴方(プレイヤー)だ。目的は未知のフォース、「シェイパー」による侵略から人類を守ること。もしくは、シェイパーの技術を取り入れて、人類を新たなステージに導くこと。守護者となるか、覚醒者となるか。
 自分がどちらのタイプの人間か見極めたなら、まずは、具体的な行動として、謎の新エネルギーXMが漏れ出すゲート(ポータル)に制御装置を設置して、自勢力のものとするところから始まる。この過程で、大体は敵(守護者、もしくは覚醒者)を倒さなければならない。倒すレベルに達しないゲームを始めたばかりの初心者は、自勢力のポータルをめぐり、ポータルとポータルを繋いでリンク、及びCF(コントロールフィールド)をひたすら作り続けるという修行が待っている。

 掛詞というのは、この仮想世界の行動が、現実世界の行動とまるで同じと映るからである。

 









 ここからは個人的な意見だ。このゲームに全く違う感想を抱いている方はスルーしていただきたい。








 不思議なことに、いや、当たり前だっただろうか。ポータルは殆ど、必ずと言っていいほど、現実の私たちが、普段、「気も止めない」ものの中(場所)にある。駅。遺跡跡に古い標識。意味を成さない街のオブジェ。寂れた神社。忘れ去られた車道脇の祠。ゴミだらけの公園。殆ど、見捨てられたものの中にあると言ってもいい。私たちはイングレスによって、そのものを再発見する。そのものを巡りながら、来ましたよ、という徴を残す。(そうしないと、武器も手に入らなければ、コントロールフィールドも作れない)Action Point(AP)稼ぎ? ゲーム上のレベルアップ、経験値を上げるため? いやいや、もはやこの行動はゲームでは済まされない。ゲーム上の日々の修行は、まるで禅や自然信仰、山岳信仰の修行者の行動と同じだ。四国巡礼、富士講や大山講。伊勢参り。信仰するもの以外にとっては、何の意味もなさないあるものが、重要なエネルギーが漏れ出すパワースポットだった。そのことに気がついたのが、大前提の「地球の危機をどうにかしなければならない私たち」というわけだ。

 仮想世界と現実世界という掛詞から始まって、イングレスの全ての行動は、現実世界の人生をレベルアップするための掛詞が隠されているのである。忘れ去られたものにより光を当てて、守り、育て、保護するものが勝者となる。敵勢力を壊すことにパワーを使う物もあれば、自勢力のエネルギーを補充することにパワーを使うものもいる。レベルの低いものが弱ったポータルを叩き壊せば、すぐに反撃されてフルボッコにされる。お前がやるなよ、と。(これも現実世界とまるで同じだ) 私たちはポータルからポータルを歩いて、「巡礼」を続ける。強くなるために。パワーを得るために。

 不思議なことに、このゲームの開発者が日本人ではないということが嘘のように。森羅万象、すべてのものに神が宿る、と信じている民族の行動とまるで同じなのである。























 それが証拠に、証拠と言ってしまっては語弊があるかもしれないが、それが証拠に。このゲームをする者に、言っておきたいことがある。

 たどり着いた場所にポータルを発見できなかったことがある。確かにここが「巡礼」の地だ。アイフォンはそう言っている。だからハックはできる。はずである。ところが、巡礼する対象を見つけられない場合、もしくは、対象をよく見もせず、ここに来た意味をよく知ろうともしないとき、ただいたずらに(武器やキー欲しさに)ハックだけをしようとしても、必ず失敗に終わる。ハックしている最中のままフリーズして、武器も、ポータルキーも結局手に入らないのである。(武器がなれば戦えないし、キーがないと自勢力のフィールドが作れない)

 なので、最近では、ハックする対象をよくよく見て、意味を知って、見捨てられたものの哀しみを癒すように、それまでの苦痛をすくいあげるように、心がけるようにしている。

 慈しみ、祈りを念じると、不思議と武器もキーもより多く与えられるようである。
 

 決して、自らのパワーを得るためだけに、プレイをしてはならない。























 私のイングレススタイルは、徒歩、車、自転車。どれも試してみたけれど、自転車で巡ることが一番楽しかっただろうか。まだレベル5になったばかりの初心者なので、当分はポータル巡礼の修行が待っている。自勢力のために前線で戦えるのは、まだまだ先の話だろう。

 戦うのではなくて、味方と味方を巡って、ひたすら繋いで、味方のフィールドを広げる。それだけだ。

 そうそう、自転車は石巻の美人事務員S氏からいただいたものを使用している。本当は離れる時に寄付をする予定だったのだが、体操仲間のN氏が大切にしてくれたから。自転車が錆びて音を鳴らすたびに、自転車に差す油を持ってきてくれたから、愛着が出て、寄付するのが惜しくなってしまった。石巻の仲間たちの心とともに持っていこうと決めた。
 イングレスのために、本格的なMTBを購入しようと思っているが。おそらくもうしばらくは先の話になるだろう。






 どうしても見つけられないポータルのキーを、どうしても欲しくて。2度目に来た時に祈りを捧げた。「対象」のない、アパートの駐車場であるだけの地に向かって。見つけられない祠を慈しみ、そっと願いを告げた。不思議なことに、今までどうしても出てこなかったキーがあっさりと出てくるではないか。ありがとうございました。お礼を言って、フィールドを作って、驚いた。戻ってくると、三叉路にひっそりと祠が立っている。ああ、いた。やっといた。あれだけぐるぐる回って見つけられなかったというのに。やっと姿を見つけることができた。
 今度こそ本当にお参りをする。祠の中には、地蔵のような石の、「見捨てられたもの」がそっと佇んでいた。
 ポータルからは200メートル以上離れた場所であった。

 私の近況はこれでおしまいだ。旅日記とは言い難い内容となってしまったが、石巻から戻ってきた私はイングレスというゲームを通して、修行の旅を続けている。猫と共に、元気で暮らしている。


 貴方もぜひ参加してみるといい。幾つの「見捨てられたもの」を見つけ、光を当てて、守れるのか。そのものを「巡礼」できるのか、試してみるといい。

 人生のレベルがアップしていく過程を、そのまま、イングレスというゲームを通して体験することができるだろう。





 ※ちなみに、私は青組、Ingress Resistance Tokyo, Japan にいるので、気軽に声をかけていただければ幸いである。


 
 ・ingress初心者まとめ
 ・ingress初心者が身につけたい、レベルアップ&上達の3つのワザ




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